ボンチ良き良き

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イタリアといえばピザ、と連想する方も多いと思いますが、断言します。イタリアのピザは美味しいです。ちなみにイタリアで「ピザ」というと斜塔のあるトスカーナの町の名前だと思われる(ピサ、とも言いますがイタリア人はピザとも言います)のでここは心をイタリア人化して「ピッツァ」と言い張ることをお勧めします。私は個人的にはローマ風ピッツァよりもナポリ風ピッツァが好きです。こう言うと「どう違うの?」と思う方もいらっしゃいますよね。ローマ風は薄くてカリカリ、ナポリ風は分厚くてモチモチ、という説明が一般的なんですが、私としてはこの説明にはうーんと言うしかない、というか、本当に店次第なのでなんとも言えないんですよね。ナポリ風が分厚いかどうか、という根本的な部分も疑問がなきにしもあらず。と言うのも、確かにピッツァのフチは膨らんでいるのですが、(マリナーラなどの)ソースや具が乗っている部分は分厚いとは言い難いのではないでしょうか。とはいえ「モチモチ」には同感です。ナポリ風は確かに全体的にモチモチしてます。でもそれはどうしてかと言うと、多分焼き方(というか焼き時間)の違いがあると思うんですね。ナポリでピッツァを頼むと明らかなんですが、とにかく高温の薪オーブンでものすごく素早く焼き上がるイメージがあります。ローマ風はどちらかというともう少しじっくり、サクサクに仕上げる、というイメージ。そしてそこに第3のピッツァと言うものがローマには存在します。それがピッツァ・アル・ターリオ(切り売りピッツァ)。

この「ターリオ」の綴りはtaglioと書くので、簡単と言われるイタリア語の発音の中では割と高度なgliの発音が必要になってくるわけです。私が習ったのは、とにかく上下の歯を合わせて、口を横いっぱいにイーっと広げた状態で、口の中でLの発音で(舌を上顎にそっとつけて)リ、と言ってみると、微妙な「リ」にほぼ聞こえない「ギ」が混ざる音になるんですけど、それがgliです。若干滑舌悪いギがうっかりリになっちゃった感じに聞こえないでもないです。

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いつも通り恐ろしく脱線しましたが、切り売りピッツァのお店ではピザはこのように長方形に焼かれることが多いです。そして売り子さんはハサミを手に、「これくらい?」と聞いてくれるので、ここでサバイバルイタリア語として Di meno(もうちょっと少なめ)とか Di piu’ (ちょっと多めに)などと言えるといいと思います。指差しで買うのが基本ではあるのでこの辺りは観光客にも敷居は低めかもしれませんね。

実は9月の終わりに夫のAさんがイタリアに遊びに来てくれていたのですが、一緒に行ったのがセレブシェフ(?)のボンチさんの切り売りピッツァ屋さん、その名も Bonci Pizzariumです。ピッツァ界のミケランジェロと言われて持て囃されたボンチさんですが、最近ネットフリックスのシェフズテーブルで紹介されていて、私が以前知っていたボンチさんと全く違う見た目なのに非常に驚きました。巨体を揺らして粉をファーッと撒き散らしながらオリーブオイルを滴らせて大口でピッツァを食べるボンチさんは、なんと、彼が人生をかけて演じていたキャラだったらしいのです。

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胃袋を切って過酷なダイエットをし、激痩せしたあとすっかり健康を取り戻して、今までよりももっとこだわりと愛情を持ってグルメな切り売りピッツァを作っているボンチさん。お店は大繁盛で、私とAさんはオープンの11時ごろにお店に行ったのですが、私が取ったチケットは20番。11番くらいから呼ばれ始めたので私たちの前に10組くらい待っていた計算になりますね。もっといたような気もするんですが、なぜか脱落組もいたので意外に早く順番は回ってきました。

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それぞれのピッツァに特に名前はついていないので実物を見て何を買うか決める必要があって、みんな出てくるピッツァに興味津々です。そして黒板が上にあるんですが、このお店の売りがスプッリ。スプッリといえばライスコロッケのことなんですが、ここではボンチさん、ローマならではの本格カルボナーラや本格アマトリチャーナをうまい具合にあげちゃっているんですね。それが最高に美味しいです。ピッツァを頼むときは忘れずに揚げ物も頼んでみてほしいです。

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お店の前の道路にちょっとした立ち食いができるテーブルが出ているので、焼き立てをそこで頬張っている人は多いです。ここは駅前なのですが、駅に行く途中にも長いベンチがあって、そこでボンチのピッツァを食べている人もたくさんいました。

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私とAさんは週末で空いている地下鉄でしたが、周りに嫌がらせのように香りを撒き散らしながら家に帰って食べました。上の写真で揚げ物を半分に切っているのがわかるでしょうか?オレンジ色のアマトリチャーナはちゃんとブッカティーニで作ってあって、黄色のカルボナーラもグアンチャーレ(首の肉のベーコン)がカリッカリになっていて本当に頬が落ちそうと言うのはこのことかと思わされます。写真に写っているズッキーニのピッツァも極上でした。あとはカボチャのピッツァが美味しかった。そうだ、卵が乗ったオニオンの柔らかいピッツァも美味しかったし、当然マルゲリータも絶品でした。

ローマ発祥の切り売りピッツァというのは、当時ローマにたくさんいた、ピッツァを1枚丸ごと頼むことのできない貧乏な労働層のために、誰でもピッツァが食べられるように考えられたという説もあります。が、ボンチさんのピッツァはそこそこお高いです。3、4種類で20ユーロくらいはすぐに超えてしまうと思います。でも全部美味しいので確実に見合う価格ではあるんですけどね。タイトルの「良き良き」はなぜかというと、ボンチさん、太った陽気なキャラを演じていたセレブシェフ時代に、テレビ局にテーマソングを作ってもらっていて、その歌が♪ボーンチボーンチボンボンボン♪というようなかなりキャッチーな歌なんです。イタリア語でボン(buon)というと「良い」という意味なので、大体こういう感覚かな、と思いました。前回ローマに住んでいた時はボンチさんのピッツァはテルミに駅のメルカートでも買えたんですが、今は彼のお店のみみたいです。バチカンの近くなので観光帰りにぜひ。並ぶ価値ありです。

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