歌劇「アルチーナ」@パリオペラ座(ガルニエ)

オペラガルニエ

先日ちょこっと書きましたが、2月の週末にパリのオペラ座(ガルニエ宮)でヘンデルのアルチーナを鑑賞してきました。写真がパリのオペラ座ガルニエ。オペラという名前のメトロの駅を出て階段を上り、振り返るとこの景色が待っています。観光客のほぼ全員がこれをキャーといいながら写真撮影しています。私もその一人。さて、アルチーナをかいたヘンデルはドイツ生まれのイギリス人。ですがイタリアにも長い間滞在したのでイタリアンオペラをたくさんかいています。アルチーナもそのひとつ。1700年代に生まれたオペラですが、中身のお話の時代はもうちょっと前を設定されているような、完全なファンタジーのお話です。私はローマで短編を1度、パリでもう一度見たことがあるんですが、そのとき全く歌の内容は分からなかったものの、超絶美人が本物の恋愛をできない悲しさのようなものを見た気がして、なぜかすごく心に残っていました。別にそういうお話ではないんですが。

それで今回パリで週末を過ごせるということで、もしかしてアルチーナの公演時期とかぶる?と思って調べてみたらバッチリでした。それで迷いなくチケットを購入。ひとりなので結構良い席がいくつか空いていて、オーケストル席のど真ん中、前から7列目をゲットできました。ガルニエの場合は実はオーケストルの座席よりもバルコンと呼ばれるちょっと後ろのちょっと上に位置している座席が良い(オプティマ)とされています。でも私にとっては、舞台で汗が飛ぶ様子まで見えるオーケストル席の臨場感は何にも代え難いのです。

Versailles

中に入って、すぐにプログラムを買い、クロークにコートを預けて、バーでシャンパンとマカロンを買って(12ユーロ)ひとまず赤いベルベットの長椅子に座ってシャンパンを飲みながら予習です。オペラを観る時は私の場合はとりあえず読み物をちゃんと読み込んでしっかりその世界に入っておかないと、すっかり取り残されてぽかーんとなってしまうので大事なのです。だいたいの筋は知っているものの、プログラムはほとんどフランス語なので唯一の英語の部分(パフォーマンスの前にどうぞ、と書いてあるところ)と、付録のオペラの会話部分(イタリア語)をせっせと読みます。挿絵にアルチーナを題材にした絵画や風景(ヴェルサイユのプチトリアノンの愛の神殿、写真がそれです。数年前に行ったときのもの。)なんかも載っていて、気持がどんどん盛り上がって行きます。そしてふと湧いた疑問。オベルト(少年役)の名前がプログラムにない。もしかしてこのアルチーナ、オベルトなしバージョン?

オーケストルの席は前から10列目くらいまで、通路席も予備席が出てもはやぜったいに離席できない状態になります。となりのひととも前後ともパツパツです。私の左となりは妙齢のカップル、男性がフランス人で女性がアメリカ人でしたのでふたりは英語でお話していて私も参加して楽しい観劇となりました。私は真ん中の通路席だったので右となりは補助席。シニアのパリジェンヌのかわいらしいおふたりが来てニコニコしてひたすら話しかけてくれましたが私にはさっぱり。ニコニコ返しをしてやり過ごしました。

大喝采で前奏が始まり、幕があくと、ものすごくシンプルなコンテンポラリーモードの舞台でした。そしてたくさんの男性が転がっています。時々半裸と全裸でびっくり。結局アルチーナの魔法で動物に変えられてしまった、という設定を、アルチーナとの消耗的な恋愛で魂が抜けてしまった男性陣、という表現にしたのだなと思いながら見始めました。下の動画が最初のアルチーナのルジェッロの場面です。奥で男装しているルジェッロの恋人のブラマンテが悲しい気持で、恋に盲目になっているルジェッロを見ています。それを優しくなだめるのがルジェッロの家庭教師のメリッソ。


アルチーナはそのソプラノやアルトの配分から、2人の女性が男性役(ひとりは男装という設定、ひとりは男性という設定)になっていて、わりと混乱します。でもそういう設定だからこそのとりかへばや的な面白さも入っているということなのでしょう。そして案の定オベルトは出てきません。モダナイズされた場面設定で、彼とお父さん(ライオン)のシーンは完全に取り除かれ、アルチーナの非情さが出ないようにしてあります。アルチーナはひとりのかわいそうな恋多き女性としてえがかれているのです。その中で観客の大喝采をあびたのがモルガーナ。この現代版ではホテルのメイドさんとして出て来て(彼氏のオロンテはホテルマン的)コミカルな動きがとても良く、かわいらしいアリアとなっていました。下にあります。どうぞ。

この映像は初演のものらしく、実は私が行ったときのほうが伸びやかでもっと大げさな動きで観客からクスクス笑いがたくさん出ていました。モルガーナは男装したブラマンテに恋してしまったので、最後にブラマンテが女性と分かったときの手のひら返し(オロンテに戻りました)がなんだかかわいそうで、しかもかわいらしくて、こういう女性いる!という感じで楽しかったです。

そして最後。ネタバレになりますけど原作とはちょっと違った方向にいってしまいました。原作はすべてもとにもどってめでたしめでたしの大合唱になるところが、これは自殺してしまったアルチーナをもういちどルジェッロが見にいってしまい、そしてルジェッロとブラマンテは違う方向へ消えて行くのです。あまりに切なく驚きの最後に息をのみました。いやぁ、素晴らしいエンターテイメントだったと思いました。

歌に関して言うと私は素人なのではっきりいって全く分かりませんが、実はフランスのオペラもイタリアのオペラも、観客がすごく厳しいので、歌が悪い場合は平気でブーイングが起こる事も頻繁にあるんですね。でもこのオペラはみんなが総立ちで大拍手喝采だったので、歌を聴く人も満足がいったということなのでしょう。チケットとったり、スケジュールの都合をつけたりと、多少面倒ではありますが、こんなに楽しいなら、またローマでもパリでもオペラを積極的に観に行って楽しもうという気持ちになりました。

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