バリ山行

バリ山行(2024、松永K三蔵)をキノッピーで先週末に読みました。タイトルの期待と少し違って、内容は会社6割、山4割といった感じで話が進んでいきます。一人称の「私」である波多さんは山はほぼ初心者というところから話が始まるのでそれはまぁ相当のことなのでしょう。私の世代だと転職というものはやっと少しずつ珍しくなくなってきた感じなんですが、波多さんが結果的に言って意外とスルっと身軽に転職しているところを見ると私の世代よりちょっとだけ若いのかなと思います。会社には年上の皆さんが多いことから、これは昭和な会社人間との世代感覚の違いをちょっと見る感じなのかと思ってちょっとワクワクして社内の和やかだったりバチバチだったり不穏だったりする雰囲気の流れを読んでいたのですが、書いてある部分よりそれ以上に、世代間での会社感というものは大きく違うなぁと思わざるを得ない部分がいくつかありました。著者さんの感覚は私に近いのかもしれませんがやっぱりちょっと若い感じがしてしまう。どちらが正しいとか正しくないとかそういうことではなく、ぼんやり境界のあるようでないような重なり合った部分があるのにやっぱり全体が違う、という感じ。そしてこれは関係ありませんが、英語で片思いのことをクラッシュ(I have a crush on himみたいな使い方で)と言ったりしますが、これって全体的に完全に波多さんのメガクラッシュのお話ですよね。

Continue reading “バリ山行”

ぼくの叔父さん

Day 2

3月の半ばに甥っ子のKがローマに遊びにきてくれました。ちょうど小学校を卒業して都会っ子が避けては通れぬ中学受験の洗礼を受けて、やっと訪れた短い春休みの塾講習の合間を縫って弾丸のローマ旅行。実はKのお姉さんであるMは小学4年生の時にローマに来ているので、本来ならばもう少し前に来ていてもおかしくなかったのですが、色々と忙しくてやっと機会が訪れたのが今年だったのでした。母親である私の姉に一緒に来てもらいたかったのですが姉も仕事が忙しく、どうしようか、となったときに私の夫のAさんが「連れて行ってあげるよ」と言ってくれてこの上の写真の凸凹コンビの爆誕となったのでした。

Continue reading “ぼくの叔父さん”

State of the Union

State of the Union: A Marriage in Ten Parts(2019、Nick Hornby):フライトを待つ時間にフィウミチーノ空港のキオスクでペーパーバックを買って一気読みしました。短いし会話中心の本ということもあるんですが、暇つぶしとはいえ飛行機の中でも2巡目読みするくらい、私にとっては興味深かったです。話の全体を覆っているブリティッシュジョークにありがちなダークでシニカルな感じがとても好みでした。こういった「夫婦の問題」という本のテーマは特に好みではないんですけどね。というのも、ピンとこない、というのが正直なところなんです。

Continue reading “State of the Union”

風と共にゆとりぬ

風と共にゆとりぬ(2017、朝井リョウ):キンドルで「時をかけるゆとり」を一気読みした後、速攻買って読みました。この方のフィクションの方の本は、まるで一人称のような三人称で、わかりやすい形で「今」を切り取るような視点だと思って読み始めたのを思い出します。でも実は意外に難解な形で切り取ってあったりして、個人的には割と何度も読み返して「うわー、ほんとだ!」と思ってしまうようなお話が多いんですよね。ちょっと分かりづらいかもしれませんが、例えば「意識高い系」の人を登場させて、それに「同調系」の人だったりそれを「イジる系」の人々が登場し、さらにそれを「鼻で笑う系」がいたりするのに、結局最後はその「鼻で笑う系」の人の心の動きが「同調系」の人のそれと何も変わらなかったりして「おおなるほどそういうことか!」と気づかせてもらえる、という感じでしょうか。私の表現力が無さすぎて自分で書いていてちんぷんかんぷんになりましたが。とにかく分かりやすく才能に溢れているという意味では読みながらさすがだな、間違えないな、といつも思います。

で、エッセイの方はどうかというと、実はこの方は自分が陰キャだと主張したいけれど、どうしても隠せない陽キャだ、と思いました。最後の3分の1はお尻の話に終始していて、それに笑いながらも大変だなぁと普通に心が痛みましたが、前半は割と前のエッセイに比べて「若者」寄りというよりは「大人」寄りな著者に驚きました。これで伝わるかどうか分からないのですが、そういう意味では指原莉乃さんと同じ匂いがします。若者なので若者っぽくふるまっているんだけれど、それを冷静に見ている大人な自分がちゃんといて、その大人な部分が実はちょっと恥ずかしいのが本人にも分かっている感じ。読んでいて細かい部分でお!と思ったのは:

Continue reading “風と共にゆとりぬ”

さよなら、田中さん

さよなら、田中さん(2017、鈴木るりか):確か新聞でこの若い著者が紹介されていたのを見て興味をもって読みました。賞に応募するために数時間で書き上げたという短編も入っていて、はっきり驚かされました。ちょっと全く関係ありませんが、最近のジェンダー関係の事象で「女性なのに」とか「女性初」といった表現にモヤモヤする感じが分からないでもないなと思っていたところなんですが、こういう作家がいると同じような感じで「こんなに若いのに」「まだ小学生・中学生・高校生なのに」なんて言われちゃうんだろうなと思います。そういう意味で大変申し訳ないけれど、でもやっぱり言いたい。この本の著者はこんなに若いのに、まるで全てを悟ったかのような、複雑な人生の難問の正解が見えているような、それでいて、そういうものを恥じらいなく大声で清らかに主張してしまう、若さゆえの痛々しく微笑ましいものが共存している、そんな雰囲気があります。でも素直で清らかで痛々しいものを真っ直ぐ表現することほど難しいことはないし、それをまるで簡単なことのようにあっさりスッキリ書いてあって、だからこそ、その内容が胸を突くんだな、と納得させられます。

Continue reading “さよなら、田中さん”