前回ローマに住んでいた時(2006 – 2016)には訪れなかった観光名所というのは意外にもたくさんあって、11年もいたのに!と自分でびっくりすることもありますが、このDomus Aureaもそんな遺跡の一つです。よくよく調べてみると、非常に広大な敷地に建てられた巨大建築だったらしく、紀元64-68年に建てられたということに驚愕してしまいます。しかも贅沢のかぎりを尽くしていたらしく、装飾も建築もこだわりが詰まっています。なぜ私はこの遺跡の存在にまるで気づかなかったのか、と思って今回色々みていたら、私が渡伊する1年前の2005年のローマの大雨で、この遺跡、なんと閉鎖されていたんですね。しかも2010年にはその影響か、一部が崩落してかなり危険な状態になり、近年ではコロナの影響で2021年まで閉鎖されていたんだとか。道理で私のレーダーに引っかかってこなかったわけです。これは6月の終わりに夫のAさんと話していた時に「ここオープンしたらしいよ、行ってきたら?」と言われて初めて気づいたのでした。それで言われるままにそそくさとオンラインで予約して行ってきました。
チケットはオフィシャルサイトで買えますが、15ユーロというちょっと高価なツアーに参加するという形でないと入れません。今のところ3つの種類のツアーがあって、一つは英語のツアー(バーチャルリアリティーを含む)、もう一つはイタリア語のツアー(英語のものと内容は同じ)、そして最後のツアーはイタリア語で、しかも考古学者、建築士、修復技術士などの専門家も一緒に回ってくれるという豪華(?)ツアーです。でもイタリア語ってところが観光客にはちょっと敷居が高いですよね。毎週のように新たな発見があるらしく、半年おきに訪れるローマの地元民もいるそうです。私が参加した時も、ちょうど2週間前に掘り当てて、掘り出し尽くした、という通路が公開されていて、ちょっと嬉しくなりました。私が参加したのは英語のツアーで朝の9時半に始まるもの。
バーチャルリアリティーは、今やいろんな観光地にあるので「ここも?」という陳腐なイメージもありますよね。でもここでは上の写真にあるようなモダンな黒い石のような椅子に座らせられ、消毒済みのVRのヘッドセットを椅子の中から取り出して楽しむという、ちょっとシアターっぽい演出になっていました。この石の椅子に座ると、目の前はアーチ型の通路の入り口のようなものがあって、その奥には土砂のようなものがぎっしり上まで詰まっていて、これから掘り出す、という雰囲気がたっぷりの場所です。そこでVRののヘッドセットを目と耳に当てると、全く同じ状況が目の前に広がるので一瞬あれ?と思うんですが、周りにいるはずの観光客が見えないのでやっとそれが映像であることに気づくわけです。そしてそこからはネロの時代にじわっとVRでタイムスリップです。この宮殿の目玉は巨大な人工池のある美しくも壮大な庭園なのですが(私は人工の庭園がとにかく好きです)、そこまでこのVRにふわっと連れて行ってもらえるし、そのネロの時代の1日は、太陽の光がこれでもかとばかりに降り注ぐ夏の美しいローマの1日、という天気に設定されているし、それなのに実際の自分自身は洞窟のようなところにいるので真夏なのに寒いほど涼しいし、ということで快適にこの歴史トリップを楽しむことができました。鳥肌ものでした。すぐにもう一度行きたいくらい。
2019年に見つかったばかりというSala della Sfinge(スフィンクスの間)もすっかり掘り出されていて全容をみることができました。16世紀にこの宮殿が完全に土に埋まった状態で見つかった時には、たくさんの芸術家が潜っていって1500年以上も前のこういった装飾や芸術を鑑賞し、楽しみ、落書き(サイン)まで残したというのですね。色彩も鮮やかな色々なアートを見て大興奮したことでしょう。ところでイタリア語で洞窟のことをGrotta(複数形はGrotte)というのですが、当時はそういう洞窟の中を這って巡って、天井画を頭の位置で見るような形だったらしく、ここで見つかった動物や鳥、人物やギリシャの絵などを「洞窟的(イタリア語でGrotte-schi、転じてフランス語及び英語でgrotesque、つまりグロテスク)」と評するようになったそうです。ここが「グロテスク」の語源だったとは驚きだし、私が思っていた「グロテスク」の意味とはかけ離れた美しさです。
ローマの遺跡はどれもとても興味深いのですが、これは特に建築も、歴史も、現在進行形の修復技術も、いろんな側面から見て本当に面白かったので、また時間をあけてもう一度行きたいところになりました。せっかくランニングついでに行ける場所にあるので定期的にチェックしてみたいと思います。