時間管理の哲学

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私の職場では仕事に役立つ研修をオンラインで受けることができるシステムがあり、それを年間の個人の計画書に入れることも推奨されているので、いろんな立場のスタッフが、それはもうありとあらゆる分野の研修を受けています。例えば、私はだらだらと何かを書くのは好きなのですが、それをきゅっと短く効果的にまとめるのが苦手なのでそういう「書く」系のコースをとったり、ソーシャルメディアをどのように仕事に生かすか、というようなコースをとったりしています。そんな中、一緒に仕事をしているロシア人のMが、最近時間管理のコースの良いのをとったよ、と教えてくれたので急に興味を持って、土曜日に最初の30分を聞いて、その次の日は仕事に早めに行って始業時間前に全部で2時間半のコースを取ってみました。そうしたら、それが異常に興味深く、その研修には継続コースもあってそれも今いくつか取っています。ちなみに写真は、私のオフィスの個人キャビネットの中身なんですが、その時間管理研修の中でコーチが説明する「ホーム」でもあります。

この時間管理のお話がなぜ興味深いかというと、そのかなり現実的なはずの原則がかなり哲学的に聞こえてくるからなんですね。つまり、一般に「時間管理」というと、ほとんどの人が例えば一日24時間という枠の中で行動や仕事などをどのように管理するか、というようなことを考えると思うんですが、このコースでは、ものすごく実用的なことを教えてくれる割には本質は実は全然そういうことではない、ということに気づかされます。まず「生産性」ということを考えるにあたって、このコーチは仕事とプライベートを分けない、という大胆でかつおそらくほとんどの人にとっての盲点をついてきます。どちらも相互的に作用するので、最終的なゴールは実はすべて「プライベート」の方が大事である、という風にすら聞こえます。つまり、仕事で生産的になり、成功し、しかも時間をちゃんと管理することによってより多くの時間をプライベートに優先して使うことができるので、結局はプライベートの充実に多大に貢献し、結果的に「人生」というものにプラスである、というような考え方です。生産性の3原則は「空間(スペース)」「心(マインド)」「時間」であり、その3つの原則を生活の中でどのように認識して管理していくか、ということが大事、というわけです。

最初に実践的に教えてくれるのが、「スイッチタスキング(作業の切り替え)」というものがいかに非効率的かということです。今もし、5分ほど時間があるのでやってみよう、という方がいらしたら、是非、紙とペンをご用意ください。そして携帯のストップウォッチ画面を出してみてください。そしてよーいどん!とストップウォッチを押して、以下の2文を一番速いスピードでメモ帳に書いてください。最初の文は全部平仮名で書いて、句点(。)も書いてくださいね。

さぎょうのきりかえはじかんどろぼうである。

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何秒かかりましたか?私は27.88秒かかりました。次に、ストップウォッチをリセットして、今度は同じ文章を2行に同じように書くわけですが、その時、一文字ずつ交互に書いてください。つまり、「さ」と書いたら「1」と書いて、そして「ぎ」と書いてから「2」と書く、というような感じです。さあまたよーいどん!でやってみましょう。何秒かかりましたか?私は44.76秒かかりました。つまり約1.6倍の時間がかかるわけです。しかも、2回目の文章はバラバラになっていて綺麗な字ではないです。数字もちょっと見づらく、14の時に数字を飛ばしそうになりました。これで何がわかるかというと、何かを交互にやったり同時にやったりすると、時間的にも、質としても全くもって効率的ではない、という証明になるわけです。

ここで気をつけなければいけないのは、「マルチタスクが出来る」というとまるで仕事が出来る人のような感じですが、短い時間の中で様々なタスクを同時にやろうとすることが「マルチタスク」ではないわけですね。メールをチェックしながら電話の応対をしたり、オンライン会議に参加しながら別の書類を作ったり、というのは「マルチタスク」ではないわけです。それは「スイッチタスク」です。また、ちょっと面倒なエクセルを扱っているときに、画面の右下にポーンと新着メールのお知らせが来て、それを横目でチラッと見たりする、というのも「スイッチタスク」になります。「マルチタスク」というのはもっと大きな部分で言うことで、つまり半年の間に大きなプロジェクトをたくさん回す、とかそういったところで「マルチタスク」と言えるというわけです。ですので、上のスイッチタスクの例はつまり、短い時間に自分の集中を切り替えながら多重の仕事をやっていると、それは実は強烈に非効率である、と言うことです。聞く必要のない会議はミュートすればいいし、聞いておいた方が良い会議は「ながら」で聞かない方がいい、と言うことですね。

で、この「スイッチタスク(作業の切り替え)」と言うものを自分の生活の中で見てみると、本当にたくさんあるわけです。誰かがトントン、とノックして「ちょっと質問があるんですけど」とオフィスにやってくるのもスイッチタスクだし、電話もそう。テキストメッセージもそうだし、ソーシャルメディアの新着もそう。宅急便の到着もそうだし、突然送られてきて「1時間後に提出して」と言われるメールでの仕事の指示もそうですね。そして「あ!あの人にあの書類を渡そうと思っていたんだった!」などと突然心に現れるものもスイッチタスクのきっかけになります。この研修のコーチは、このスイッチタスクの元凶をなるべく減らして、集中力を増し、結果的に時間を大事に、有効に活用しよう、ということを言っているわけです。そして上にも書きましたが、「空間」も生産性には大事。つまりデスクトップ(現実のオフィスの机の上も、コンピューター画面のデスクトップも)にちゃんとした空間があることによって生産性は確実に増すわけです。そして「探し物」は非生産的だし非効率的。ですからいつでもすっと物が出てくるように、キャビネットやコンピュータのフォルダーなどがきちんと整理されている必要があるわけです。

最後の原則の「心」の部分がわかりづらいかもしれませんが、例を出すと、例えば家で毎日使っている、ある電子機器の電池が切れそうになっていたとしましょう。それで、「そうだ、今日の仕事帰りに電池を買って帰ろう」と思ったとしますね。それでその「タスク」は「心」に留め置いてあるわけです。この研修のコーチはそれが問題だと言っているわけですね。タスクが1つくらいの時はいいですけど、ほとんどの人は心にいろんなことを留め置いているわけです。例えば「来週の母の誕生日にはお花を送ってあげたい」とかもそうだし、「子供が大きくなってきてマンションも手狭になってきたから引っ越しを考えなきゃ」もそうだし、「あーいつかエジプトに行ってピラミッド見てみたい」なんかもそうだし、「今月の電気代が高かったから来月はちょっと省エネしなきゃ」もそうですよね。それでいろんなことを心に留め置きすぎると何が起きるか、と言うと、つまり、色々と「忘れる」ということが起きるわけです。

最初の例の「電池を買う」と言うのを忘れるとどうなるかというと、家に帰って、その電子機器を使う段階になって思い出すわけですね、「ああ!電池を買うのを忘れた!」と。それがどれくらいストレスになるかは人それぞれですが、少なくとも「電池を買わなきゃ」と思うのが2回目、と言うことになります。細かい話ですが、電池を買っていればその「買わなきゃ」と思っている時間は必要ないわけです。少しだけ時間を無駄にしています。それが3回目、4回目、となるとこれがさらに増えます。そしてその忘れている間にその電子機器の電池が完全に切れ、メモリーが消えてしまったらどうでしょう。今時そんな電子機器ないかもしれませんが、それはものすごく大きな損失になり得ます。数秒のロスだけでは済まなくなるわけです。そしてちょっとゾッとするのが、大きめの「留め置き案件」、例えば「エジプトに行きたい」と思っていることなんかをしょっちゅう忘れるとどうなるか、というと、結論から言うと、エジプトに行く準備にはいつまでたってもたどり着かないので、エジプトには結局一生行け(か)ないわけです。

じゃあどうすればいいのか、というと、つまり「心」に留め置くのをやめましょう、ということなんですね。そして心に留め置かなくて良いシステム、というものを構築すればいい、というわけです。そしてこの方向性で、限りなく実用的なノウハウをその研修コースで教えてくれるわけですね。一番上の写真はキャビネットのファイリングシステムですが、このようなホーム構築のシステムも教えてくれるし、コンピューターのクラウドディスクの使い方も全部細かく教えてくれるし、本当にためになります。もちろんこういうことを考えたことがない人や、そもそも整理整頓が苦手な人にとっては、考え方をこうやってスパッと変えるのはそんなに単純なことではないかもしれないので、誰にでもおすすめ、というわけではありませんが、聞いているだけでもそれなりに面白く、ときには近藤まりえさんをも彷彿とさせるような哲学も入っているので、思わずなるほど!と唸りたくなることも何度もありました。

ちなみにコースはLinkedIn LearningのTime Management Fundamentalsというものですので、アクセス権がある方はぜひ。私は関連コースを今非常に興味深く履修しているところです。

2 Replies to “時間管理の哲学”

  1. 興味深すぎる問題ですね。とくにスイッチタスク関連。これが積もり積もって、不達成感につながりやすくて精神衛生にもとっても悪いことはわかっているのに、わたしの人生スイッチタスクに満ちていることを痛感させられます。あ、こちらにコメントしている今は、「mtwebみるぞ」とおもってサイトにアクセスし、「コメントしよう」とおもってコメントしているので、今、何からもスイッチングしていませんよ!!

    1. お姉さま:そうなのよ。この講座を受けてから、1日中いろいろなスイッチタスクの素を見ることができるようになって、それをちょっとだけコントロールできるようになったので、かすかにモチベーションが上がっている日々です。一時的なものかもしれませんが。一番、やって良かった!と思うのが、仕事メールの新着お知らせを全部オフにしたこと。そして毎朝ちゃんとスケジュールして、メールのインボックスをプロセスする時間を設定したので、私の「同じメールは2回読まない」というポリシーをさらに強化できました。今は、メッセンジャーやワッツアップや微信やラインやテキストメッセージが来る度に携帯を見ないようにするには、という本質的なところを教えてもらっているところです。まずはプライベートで家族や大事な人たちと、使うメッセージングツールについて統一するのが一番いいんだって。頑張ります。

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