日本に、しかも高校卒業まで毎日過ごしたこの自宅に、こんなに長く滞在するのも久しぶりのことで、まるで高校以来時がとまったままのような自分の部屋で、ときどき目覚めの時なんかに、寝ぼけた頭でかなり混乱することがあります。あれ、私なにしてるんだっけ、という感じ。そして私は特に、「読書好き」というよりは、「書籍所有好き」なので、部屋をぐるりと見渡す限り、ミッチリと、私が若い10代だったときにお小遣いをためて買ったたくさんの蔵書があるので、それはもう、まさに、私の「青春」そのものといった感じの部屋にいると、さらに自分ワールドに入り込んでいきます。
そして今日私はひとつの法則を見いだしました。ハードカバー、単行本、文庫本、巨大絵画集、などいろいろな形態の私の本が、それはもう、まるでひとつの芸術のように私の部屋にところせましと並べられているのですが(私が大学へ行くために家をでて以来、私の父がコツコツと私の蔵書を著者名や種類などにそって、分類、整理したらしいです。それはもう、信じられないほど美しい眺めです)、実はこの、様々な種類の本の中でも、どうやら私に「再読」されがちな本には共通点があるらしいのです。
それは以下3点。
その1:眠りにつくために読む、もう何度も読みすぎて結末も全て何もかも分かっているのにそれでも読みたい推理小説。
その2:私が家族に影響されて(家族が好きな作家など)読んだり買ったりした本。
その3:海外作家(特にヨーロッパ系)のいわゆる「純文学」に分類されがちな、文庫本で背表紙がだいたい5ミリから7ミリ程度の薄い本。だいたい、その当時の値段で280円とか320円とかそのあたりの本。
特に、私がついつい熱中して読んでしまうのは「その3」の類いです。あまりにも「名作」だったりする作品が多いため、恥ずかしくてこのウェブには特に書き出したりしていないのですが(たとえば、「ある朝、何か気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で…」で始まるかの有名なあの本とか、最後に”『そんなふうに考えはじめてはいけない』”と彼女は優しく言った。”「そんなことをしたら気違いになってしまう……』”で終わる、あの有名女流作家の3作目とか)、かなり、ハマって同じ本を2回たてつづけに連続で読んだりしてます。うわー2回も同じの読んじゃった、と思ってちょっとバカみたいなんですけど。
それで思うんですけど、こういう種類の本って「名作」だとか「文学」だとか言われたりすることがあっても、実は普通っていうか、確かにすごく良いのは確かなんですけど、なんというか、こう、別に敷居が高いとかそういうわけじゃなくて普通に、私みたいな普通の女に、特に、なにかを強く訴えかけてくるから「名作」なんだなーと思います。
特に描写が美しいとか、言い回しがすばらしいとか、知識にあふれているとか、そういうのをひけらかさないで、タンタンとしているのに、実は描写も美しいし、言い回しもすばらしいし、スミズミまで、もう本当に、キラキラと知識にあふれているんですよね。ってそのままですけど。そういう、何気なさ、さりげなさ、という、そういうものが、実はすっごく人に感動を与えたりするんだろうなー、と今更のように思いました。
で、最近読んだ2冊。
「泣かない子供」江國 香織:エッセイ集、というにはあまりにも抽象的なものがたくさんある随筆集。中盤の書評が大好き。ウンウン、そうよね、分かる!という気分でかーなーり、共感しました。最後の俵万智さんの「手紙」になぞらえた解説もかなり良かった。
「タイユバンの優雅な食卓」アンドリュー・トッドハンター:アメリカ人フリーライターによる、フランスの三ツ星レストランにまつわるお話。小説のような私小説のようなドキュメンタリーのようなエッセイのような、なんともいえない本。クドい!と思う文章も(お料理も)あるけれど私は好きでした。文庫本14ページの1行目は、実は私の夫のAさんも、全く同じことを言ったことがあったので思わず感極まりました。同じだ!という感じ。そして途中、「誰でもすぐに気づくはずだが、わたしたちは皆、過去というギリシャ人を詰め込んだトロイアの馬なのだ。」のところとか、「?」となって「ああ!」となる気分が良かった。あと、途中にある、「自分の結婚にひとつだけ願いごとができるとしたら、会話や知識にたいする尽きせぬ愛を望むだろう。セックスの相性よりも、子供の育て方の意見が共通することよりもだ。結婚生活でいちばん恐ろしいのは沈黙、何も言うことのない灰色の荒涼たる時間だ。」のところにへぇ、と思いました。確かに私とAさんは毎日わりとノンストップでべらべらしゃべっているけれど。それが「願いごと」で望むものかどうかは分からないところ。そして後半、タイユバンの名シェフが「日本のスシは『料理』とはいえないけれど」と普通に発言しているところに異常にイキリたちました。ナニ?なに?なんだとーー!という感じ。こんな私の隠れたる愛国心が面白かった。お寿司大好物ってわけでもないのに。
とまあ、書き出したトピックとは全然違う2冊でしたけど、一応書き留めておこうと思ったので。それにしても同じ読書といっても、やっぱり英語で書かれたものと、日本語で書かれたものは、読むスタンスが違うので全然違う楽しみ方ができるなーと毎日感動しております。