いつ終わるのか、というお話

とある理由があって私はこのブログでは、なるべく時事的なことを扱わないようにしているのですが、先週、職場で仲良くしている人々とランチ中にこの「いつ終わるのか」問題について科学的根拠なく自由に話し合ったのが楽しかったので書き留めておきたくなりました。もちろん、現在進行形のこのいわゆるパンデミックな状況が、ということです。

まず最初に、国際機関で数々の交渉や会議、委員会をまとめてきた皆様に「あるある」なことなんですが、みんな大好き「定義」のお話から始まりました。つまり「終わる」とはどういうことを指すのか、ということです。面白いことに、みんなが「いつ終わるんだろう」と言っているそれは、決してSARS-CoV-2というウィルスの絶対数が減ることや、それに感染して(COVID-19にかかって)病気になる人の数が減る(いなくなる)ことや、そのせいで亡くなる方が減る(いなくなる)ことそのものがメインではないということがわかりました。私たちが終わって欲しいと願っているその先にあるものは、私たちの中にある漠然とした恐怖が減って「大衆のマスク姿」が2019年レベルになることであり、自由に何時でも外を出歩けることであり、楽しく友人と集まって会食ができることであり、2019年のレベルで飛行機に乗って海外に行けることであり、公衆で咳がしたくなっても申し訳ない気持ちが2019年のレベルに戻ってくれることであるわけですね。

ですから原因であるウィルス(今回の場合)について色々と議論するのはそれはそれで科学的に面白いことであるし、今回のコロナウィルス系の難しさ(治療薬とワクチン共に)には様々な要因があって、ウィルス自体がRNAウィルスであることもその状況を決して良くしてはいないので、天然痘(DNAウィルスによるもの)やペスト(菌によるもの)なんかと比較して歴史から学ぼうとするのも私たちにとってはとても面白いんですが、「いつ終わるんだろう」と思っているたくさんの人々が求めているのはきっとそういうことではないんですね。

あと(私にとって)面白いのは、日本でいわゆる「風邪」と呼ばれているものは英語だとCommon Cold(普通感冒、よくある風邪)というように、これは便宜上のカテゴリーなので、フワッと色々なものが入っているわけですね。風邪っぽい症状、というようなものが出る原因になるものは大体入っている。一般的なライノウィルス(RNAウィルスです、血清の種類が多すぎて全てをカバーするワクチンは現実的ではないためありません)によって起こるものは当然、アデノウィルス(DNAウィルス、プール感染が多い目が赤くなるアレで、塩素消毒で結構イチコロなウィルスです)、私の仕事でもよく扱う、食べ物からくることもよくあるエンテロウィルス(RNAウィルスです)なんかも「お腹の風邪」と言われたりします(ワクチンは多分研究者の方々が頑張ってはいるんですが、まだできていないので、基本的には対処療法です)。コロナウィルス(RNAウィルス)もあまりに一般的なので、多分SARSの前くらいまでは普通に風邪の一つ、という認識だったと思うんですが、SARS、MERSあたりから便宜上、あるいは法規上、いわゆるSARS症候群のグループは風邪のカテゴリーには入れなくなったんだと思います。

そしてインフルエンザもインフルエンザウィルス(RNAウィルス)による風邪といえば風邪なんですよね。何が違うかというと、インフルエンザはいつも世界の何処かで大流行していて、毎年何百万人もが重篤な症状(仕事や普通の生活ができないレベル)で罹患していて、感染経路がヒトヒトな飛沫感染であることが多く、なかなか予防も難しいので、国が政府レベルで対策をとっていることが多いことから「風邪」カテゴリーに入れず、別枠にして、ワクチン開発も毎回毎回行なって、ウィルスとワクチン開発のいたちごっこになっている、と。インフルエンザウィルスの場合はその型に現在4種類あることがわかっていて(A型、B型、C型、D型)、季節的な流行のトレンドもあることから(日本だと冬ですよね)ワクチンが有効的な「時期」というものが存在するし、また現在いわゆるタミフルやアビガンなどの「抗インフルエンザ薬」がギリギリ存在するので、現在進行形のSARS-CoV-2とはちょっと状況がマシといえばマシなんですが、それでも全世界で年間30万人からもしかしたら100万人のレベルで亡くなっている人がいるとも言われてますよね。

本題に入りますが、じゃあなんでインフルエンザを恐れて私たちは鎖国したり飛行機を止めたりしないのか。それは、スペイン風邪の時に流行して恐ろしかったインフルエンザの型が、たくさんの人々を殺し、もう燃えるものがない時の火事のように自分で治まってしまったので、その後流行ったインフルエンザは限定的かつ季節的な「弱い」ものに「見え」、社会的な制約に疲れた人々が「忘れる」方向に向かったから、という見方で私たちの議論はそこそこ一致しました。非常に非科学的で申し訳ないのですが、それ以外の説がそんなに強くないのです。

今回のパンデミックの「終わりの形」のパターンを強いてカテゴリーに分けるとすると、非現実的なオプションも多数含め、以下の8つのカテゴリーになると思います。(1)完全に封じ込めて、誰一人としてSARS-CoV-2のウィルスのキャリアーがいなくなる状態を作り、ウィルスが死滅する。(2)素晴らしい特効薬ができ、SARS-CoV-2(とその変異系)にかかってもすぐ治るようになって、もう恐れる必要がなくなる。(3)素晴らしいワクチンができ(副作用も少ない!)そのワクチンを世界の大多数が進んで受け、集団免疫がそれなりに完成する。(4)すべての人がSARS-CoV-2に罹患し、死ぬ人は死に絶え、たまたまその抗体が(奇跡的に!)その後の変異系にも役立ち、集団免疫が完成する。(5)SARS-CoV-2がある日、勝手に変異を起こし、人間に害のないもの(あるいは弱いもの)になり、そんなに脅威でなくなる。(6)「新しい日常」に人々が慣れて、海外旅行をしない、大人数の会食をしない、などの行動が本物の日常になる(7)人々が「制約」に疲れ果てて、もういいじゃん、感染したら感染したで仕方ない、亡くなる人は亡くなるさ、とパンデミックを忘れる方向に行き、「新しい日常」以前の経済活動に徐々に戻っていく。(8)上記のいずれかの2つ、3つ、あるいは4つのコンビネーションが起こりなんとなく終結する。

私たちのグループの考察だと、(8)が一番起こり得るカテゴリーで、その中身は(5)と(7)のコンビネーションに、ちょっとだけ(2)と(3)が混じる感じ、という結論になりました。どうして(2)と(3)が「ちょっとだけ」しか混じらないかというと、すべてのタイプの変異に対応できる特効薬とワクチンはむり、とみんな分かっているのと、ワクチンを大多数の人が進んで受ける、という状況が無理(ネットではやっている”Karen”をご存知でしょうか?ググってみてください、ちょっと差別的な部分もあるので話半分で聞いて欲しいのですがKaren的なアンタイヴァクサーな人って、どこにでもある一定の数だけいるものです)、というのをみんな冷めた気持ちで考えているからです。(5)がすごくあり得る、と思っている専門家は少なくないだろうし、こう言った場合の「終わり」というものは意外に人々の中から生まれるものかもしれません。だから「いつ」終わるか、ということになると、その人々の我慢の限界がいつくるのか、ということなのかもしれませんね。だからきっと2021年か2022年のいずれかではないか、というぼんやりした推測となりました。それ以上みんなが我慢できる感じが全くしない。

こういうのはだらだら話しているだけで楽しいものなので、私の夫(大阪出身)から「で?オチは?」と言われそうで心配なんですが、私たち一般人レベルができることの中で力強く言いたい3つのことを以下にまとめて結論的なものにしておきたいと思います。「なんだ結局真面目か!」と怒られそうですが。

1)まず、ワクチン(予防接種)について。政府が認めた、現在流通しているワクチンにはしっかりとした存在の理由があります。不安ならば勉強して、副作用、リスクなどを知った上で、さらにそれを上回る利点、自分と他人(体の弱い人など)への好影響、も知って、ワクチンは前向きに打ってもらう方向でいきましょう。指定されたワクチンはもちろん、お医者さんが打ったほうがいいよ、と言ってくださるワクチンは積極的に受けましょう。時々「今までワクチンなんか打ったことないけどインフルかかったことないからワクチンなんかいらないよ!」と高らかにおっしゃる方に出会いますが、それはなぜかと言うと、ひとえに、周りのかたがワクチンを打ってくださっているから集団免疫ができて、「大」流行を避けられているからなんですよね。ワクチンを打たずして効果を享受しているラッキーなお方です。そんな運は長くは続きません。コロナにワクチンがない今こそ、季節性インフルエンザのワクチンは重要です。受けましょう。

2)AMR(薬剤耐性)問題について。「抗菌剤」って頼もしいですよね。初期のペニシリンがすごい、という話はみなさんご存知かと思いますが、そういった抗菌剤が効かない菌が近年どんどん出てきている、というニュースも聞いていらっしゃることでしょう。世界銀行の調査によると、薬剤耐性菌によって現在全世界で年間70万人が亡くなっているし、このまま対策なしだと、30年後には1000万人が亡くなるとという試算が出ているのです。菌が強いから強い薬剤を作る、強い薬剤に出会った菌がそれに耐性を持つような変異をとげる、それにさらに強い薬剤を作る、もっと強い菌ができちゃう、というシーソーゲームなのです。ではどうやってこれをスローペースにして時間稼ぎするか(その間にもっと強い抗菌剤を作らなければいけないというジレンマも存在します)、というと、超原始的なのですが、抗菌剤をなるべく使わない(地球環境に流通させすぎない)ことによって菌に一息つかせるわけです、「耐性作らなきゃ!」と菌に思わせないで油断させる。そのためには地球上の一人一人がなるべく抗菌剤を必要な時以外使わない努力をしなければいけない。コロナや風邪のウィルスには抗菌剤は効かないので飲まない(飲むとトイレに流れていくので地球環境に流通します)。お医者さんに言われた通りに抗菌剤は飲みきる。途中でやめたりとっておいたりしない。人にあげたりもらったりしない。専門家(お医者さんや薬剤師)にわからないことは相談する、などが私たち一般人にできるレベルのことです。私の職場であるFAOではそれをさらに動物植物の生産レベルに持っていって、生産者が使う抗菌剤(家畜や養殖の魚介類、植物にも使われます)の不必要な使用(有効でない使用)を指導したり、獣医さんや政府の人々と協力して生産者レベルでAMR対策をしています。WHOは公衆衛生レベル(お医者さんも含め)で対策をしています。こういった活動って一見、長い先の見えないトンネルのようなものなんですね。でもここまで読んでくださった方はこのすべての「終わる」話がここに繋がってくるのを分かっていただけると思います。AMR対策、一人一人が真面目にやりましょう。

3)当たり前すぎて本当に申し訳ないのですが、最後が、実は一番大事で一番効果的でたくさんのことをシンプルに解決してくれるかもしれない「手洗い」の話です。みなさん今日この文章を読むまで朝から何度手を洗いましたか?「新しい日常」になってからは毎日しょっちゅう手を洗っているよ、という人もいれば、そういえば緊急事態宣言の頃よりはあんまり洗わなくなっちゃった、という人もいるかもしれません。20−30秒くらい洗ってますか?私もこの辺りは声が小さくなっちゃいます。でもね、強く言わせてください。手洗いってすごいんですよ。微生物、菌とかウィルスとかは「流れていく水」がすごく好きで本当に20−30秒洗うと、十分なレベルで手からいなくなっちゃう。しかももっとすごいのが、手洗いをする前の手にはすっごくたくさんの微生物がいるんですよ!これを習慣にするだけで、抗菌剤よりもずっと効果があります(断言)。私な食品安全の仕事をしているので、毎日毎日手洗いのことをずっと言い続けている人生なんですが、このパンデミックで唯一、強いて探した上での前向きな出来事が「人々が前よりはずっとちゃんと手を洗うようになった!」ことなんです。素晴らしい前進です。みなさん、続けましょう。この先たくさんの菌やウィルスが世界を席巻すると思いますが、手洗いは世界を救います。一回や二回の手洗いじゃダメです。習慣化された、ちゃんとした手洗いが世界を救います。

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