自分で走っていく

今年度最初のマスターズシリーズであるPacific Life Open Tennisを楽しく観ているのは、前に書いたとおりですが、今現在、Andy Roddick vs. Tim Henmanの緊張感あふれる試合がESPN2でやっています。それぞれタイブレイクで1セットずつとって、今2-2ゲームの完全なるタイ。このトーナメントは、男子でも2セット先取なので、この最後のセットを取った方が勝ちなのです。さっきから二人ともミスが少なく、だいたいウィナーを取ってポイントが加算されていくので観ていてとてもエキサイティングなのです。
それで思ったんですが、アスリートのみなさんは、特に球技関連のアスリートのみなさんは、「次の行動」というのが自動的にできるようになっていくのですね。もちろんそれは生まれつき持った瞬発力、反応する力もあると思いますが、実はこれはいわば、どれだけ数多くのプレイを経験したか、練習したか、研究したか、克服したか、などなど、一言で言ってしまったら練習の賜物である部分が大きいのだと思います。今も、アンディくんはウィニングパッシングショットを打ったのですが、ティムが前に走ってきて拾おうとし、結局ラケットは届かなかったのに、そのラケットの振った方向にもうアンディくんは走ってるし、まるでバーチャルな放物線が見えたかのようにコンパクトにラケットを引いてひざも深く曲げ、リターンする用意が完全にできているのです。その間、きっと1秒から2秒というところ。


それで、私は小学生のときに仲良しだった丸山君という男の子を思い出しました。低学年のとき席が近かったせいかよくお話していたのですが、たしか3年生のときに、学級対抗の野球大会があったとき、運動のできた丸山くんはキャプテン兼、ピッチャー兼、4番バッターに選ばれたのです。チームの半分は女子でないといけなかったので、当時学級委員をしていた私がなぜか副キャプテンに選ばれたのですが、私は運動音痴、いったいどこを守ればいいのだ、ということになって丸山くんが、「どうせ学級対抗だからホームラン打てるやつはいないから外野がいいよ」とレフトを守ることになりました。
本大会の前に、おとなりのクラスと練習試合をすることになったのですが、果たして丸山君の意見は正しく、みんな素人なので遠くに打てても基本的に振り遅れているためレフトには引っ張れず、だいたい外野にくるとしたらライトかセンターで、しかもほとんどは内野ゴロだったので、私は被らされていた、「赤白帽子」のつばの部分をぎゅっとひっぱったりかぶりなおしたりするだけで回が進んでいくのでした。
そして意外にもお互いに大量得点を重ね、8-7のリードで迎えた最終回。そうです、ご想像通り、ボールはレフトにやってきました。でも、フライではなく、サードを守っていた本田くんがトンネルをしてしまったのです。コロコロコロコロコロっと転がってくるボールちゃん。私は必死でそれをつかみ、「こっちこっち!」と狂ったように叫んで手を大きく振っている丸山君にえいっと投げました。そして丸山くんは、もうすでに8-8になってしまって次の走者が走り込んでくるホームに必死で投げたのですが…。
彼のボールは結局間に合わず、驚くべきことに8-9の逆転サヨナラ負け。小学生は残酷なので、本田君が結局みんなに「なにやってんだよ!」となじられるハメになったのですが、私も微妙な良心の呵責を感じていました。そして下校の時間になって、丸山くんが後ろから走ってきて、「遠山さん一緒に帰ろう」というのですね。そんなことは今まで一度もなかったので何だろうと思っていたら、丸山君が、「遠山さん、あのボールね、転がってくるとば待っとってもいかんとよ、転がってくるて思ったとこに自分で走っていってから取っとよ、そがんすっと僕に投げるとも短いけん同点におさえれたかもしれんたい」と一気に言いました。熊本弁は難しいから標準語訳は必要かしら?えっと、「転がってくるのを待っていたらいけないんだよ、転がってくると思ったところに自分で走っていってから取らなきゃいけないんだよ、そしたら僕に投げる距離も短いから同点に押さえることができたかもしれない」と言ったのです。
小学3年生の、運動音痴の私にとっては、これは世界の大発見のようなものでした。おお!そうなのか!自分とボールの距離を計算して、ボールの転がってくる早さと自分の走る早さがちょうどミートするところを目指してボールをとるのか!なんと難しい!
それから私のスポーツの能力が向上することは全くなかったのですが、こうして丸山くんが教えてくれたことは違う意味で私に影響を与えていると思います。欲しいものが転がってきて、それを本当に欲しかったら自分から走ってその距離感をつかみながら、一番ミートするところでつかむんだ、と、そういうふうに考えるようになったから。といっても、まぁ、今私がレフトを守らせてもらっても3年生のときと何も変わらない力だとは思うんですけどね。
とかなんとか熱くなって書いているうちに、試合はヘンマンに有利になってきました。アンディくん負けちゃうのね。

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