断言を好まない

昨日、うちの郵便受けに届いていた、うちの大学の卒業生なら誰でもが受け取っていると思われる、Washington State MagazineのFall 2002号ですが、興味深い記事と共に、私が先日書いたこととほぼ同じ内容のものが書いてあったので興奮しましたのでここに引用します。
genetically modified foods: WHAT’S IN IT FOR YOU?というのがタイトルなのですが、まぁいろいろな遺伝子組み換え食品にまつわる、わりと科学的事実などがずらららっと書き連ねてあります。最初のキャッチーな書き出しは以下の通り。

Genetically modified foods could well be the solution to a number of problems, from pesticide toxicity to world hunger. But neither the technology or the issues surrounding it is as simple as planting a seed in the ground.

となっています。つまり、「遺伝子組み換え食品は農薬毒の問題から世界飢饉まで、たくさんの問題への解決となりえます。しかし、その技術そのものも、それにまつわるさまざまな問題も、種を地面に植えることほどシンプルなことではないのです。」という感じでしょうか。
読み進んでいくと、これを書いた人はインタビューをかなりやったらしく、ものすごく、中立の立場で書いています。ちょっと中立過ぎて物足りないくらいです。日本で反対されるほどはアメリカでは反対されていない遺伝子組み換え食品ですが、これからはじわじわと反対されていくのでしょう、と思わせる部分も多々。これは別に遺伝し組み換えの技術が危険とかそういうことではなく、誤解を恐れずに書けば、つまり、トレンドなんです。ナチュラルなものを、と求める気持ちは分かりますが、今現在完全ナチュラルな生活ができるところで完全ナチュラルの生活をすることができるわけがない現代人のちょっとした気分的贅沢のトレンドです。ちょっと言い過ぎかな。でも本当にそう思う。
だいたい、「ナチュラルなもの」の「ナチュラル」の定義さえできない人が反対していることが多い。しかも、サイエンティストもマッドサイエンティストじゃあるまいし、ひたすら安全性をうったえてどうするんだ、と思います。つまり、先日書いたように、こういったことに「断言」は禁物だってことです。こういう利点がある、こういうリスクもある、というのを自分で知るべきだ、ということです。そんなことを考えながら読み進めると、途中で、おもわずヒザを打つコラムに出会いました。
そのパラグラフのタイトルはTime Out。この記事のまん中ほどにある部分で、いろんな事実関係を書いたあとにある、「ちょっとまって」風の文章です。ここを完全引用してみます。

By this point, you’re probably wishing I’d just get to the point. Is this stuff safe to eat, or isn’t it? As you’ve undoubtedly noticed, however, scientists don’t exactly agree on these issues. Their sense of risk involved generally varies according to what kind of scientist they are. For example, in general, ecologists with an evolutionary bent tend to worry more about environmental risks than do molecular biologists. The ecologists would say that molecular biologists do not understand the big picture. Molecular biologists would say that ecologists just don’t understand molecular biology.
However, here’s a major truth that unites the scientists. Scientists are very uncomfortable claiming absolute certainty about anything. This is not moral relativism. This is just the nature of science. Whwereas activists, journalists, politicians, and fundamentalists of any persuasion love moral absolutes, scientists prefer to evaluate effects in terms of risk.

ここまで読んで、そう!そうなのよ!そういうことなのよ!と思わず声に出して言ってしまって横にいたAに怪訝な顔をされました。全てを読むのが一番分かっていただける方法かと思いますが、まあ1行でまとめると、つまり、サイエンティストというのは断言を好まない。ということでしょうか。無知の知じゃないんですが、自分が知らないということを知っている。だからどんなに自分が信じていることでも、「私が信じる限り、」とか「これまでの例をみると高い確率で、」とかそういう表現をうっかりしてしまいます。だからマスコミには受けないんだと思います。マスコミはジャーナリストでありアクティビストであり政治家だからね。モラルアブソルートを愛するんでしょう。「ハッキリして!」と言われかねない。ときにはハッキリすることも必要なんですけどね。いや、逆に言えば、社会で生きていく上で断言が必要な場面は、多々、あるはず。それでもやっぱり、どうしても、断言というものはしづらいものなのです。
それにしてもわたしがダラダラと8/20の日記で一生懸命説明しようとしたことをこんなに簡単に分かりやすく説明している人がいると嬉しくなると同時に自分が情けなくなりますね。もうすこし勉強が必要だ。

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