スポケンでの日本人拉致事件

日本でもニュースになったみたいですが、私の住む町プルマンから北に1時間半ほどのところに、シアトルに次ぐ、ワシントン州第2の都市であるSpokaneという町があり、そこで日本人の女学生が数時間拉致されてしまったということでローカルニュースが騒いでいます。暴行されたかどうか、などの詳しい部分はまだ分かっていないらしく、また私もしっかりニュースを見ていないので、そこまで詳しくはまだ分かりませんが、どうやら2件あるらしく、ひとつは「むこがわ(漢字が分かりません)女子短大」のスポケンキャンパスで、もうひとつはゴンザカ大学という私立の大学で起こったみたいですね。どちらも日本人の若い女生徒が被害者で、どちらもアメリカ人の加害者が「ダウンタウンまで乗せていってあげるよ」などという誘い方で拉致したらしいです。


聞けば被害者は大学1年生で、アメリカに来て間もないらしく、まだアメリカと日本の社会の違いをしっかり実感していなかったのが原因だと思いますが、こうしてニュースを見ていて思うのはやっぱり「同じ日本人として恥ずかしい」という気分が少しと、「そういう誘いに乗ってしまうのも分かる気がする(私は乗らないだろうけれど)」という気持ちが少しと、「アメリカがおかしいのか日本がおかしいのか?」という疑問といろいろ複雑な気持ちになります。
日本では普通に、いわゆる「ナンパ」というものがあり、よっぽど人を間違わなければひどい目にあったりすることももしかしたら少ないのかもしれません。もちろん日本でもそういう犯罪もたくさんあるんでしょうけれど。私はもともとナンパなんてされる年令でもないので話になりませんが、ナンパに乗ったことがある日本の女性って全体の何%くらいいるんでしょうか。私は1ケタだとはとても思えません。そういう社会でずっと生きてきて、いきなりアメリカに来て、同じような雰囲気の人に声をかけられて、車がないと不便なアメリカ生活で「歩かなくていいしバスにも乗らなくていいからラッキー」と思ってしまってそういう誘いにのってしまう人がいるのは、変な感じですけれど、私にも分かる気がするんですね。ちょっとその被害者をかばい過ぎでしょうか。
こうしてかばってしまうのにもわけがあります。それはうちの大学にも来る、関西外語大学や日本大学の交換留学生。だいたい冬、2月くらいや、夏休みなどにに1ヶ月くらいの単位で、数十名、毎年くるし、1年の交換留学システムもあるらしく、このWashington State Universityには卒業生も含め、たくさんのそういった大学出身の学生がいます。もちろんごく一部ですが、私はそういう女の子たちが、アメリカ人の男の子の友達の車に乗って、出かけるところを何度も見かけたことがあります。1ヶ月の滞在で、それほど信頼できる友達ができる、ということのほうがちょっと珍しいと思ってしまう私としては、いつもそういった女の子たちをみて、心配でハラハラしてしまいます。そういうときに自分に言い聞かせるのは、「プルマンに限って大丈夫、あの男の子も良さそうな人だし、しかもふたりきりというわけでもないし」といった感じのことです。そして運良く今まで何の問題もなく、そのライドをくれた男の子もみーんな「本当にいい人」だったということで心配はなかったのでした。
でもこの夏、そういった学生たちが、クラスの中で、発言をしようとして「買い物に行こうとしたらピザハウスで偶然会った優しいアメリカ人の男の人が車でつれていってくれました」と言ったらしいんですね(A談)。そしたらそのクラスを教えていたアメリカ人の先生が目の色を変えて驚いて、それから先生達だけ集まって緊急会議をし、そのあと特別にその留学生を集めて、「知らない人の車には絶対に乗らないように」というミーティングを開いたらしいんです。こういうことって事件になったあとで見ていると、「バカだよねー知らない人についていったりして」と思ったり、「小学生じゃないんだから」と思ってバカバカしく思ったりするものですが、私はその話を聞いたとき、これはどんな普通の常識をもった女の子にでもうっかりやってしまうことかもしれないと思ってしまいました。特に日本人だったら。やっぱり日本は平和すぎて、みんなあまり問題意識がないのかもしれませんね。
治安という意味で考えると、アメリカは怖い、と一般に思われていると思うし、私もずっとそう思っていました。でも、私個人の考えだと、そういったストリート犯罪の95%は自分の意識だけで防げると思います。どうしても防げないのは残りの5%であって、その割合は日本にいるときとほぼ同じではないかと思ってしまいます。たとえばコロラドのスクールシューティングや、日本のサリン事件など、どんなに気をつけていても怖いことが起こってしまうことはあるハズですよね。でもその95%を「気をつける」ときの基準が日本とアメリカでは違うと思うんです。私はプルマンの治安の良さにうっかり平和ボケしてしまって、時々夜中に友達の家から帰ったり買い物に行ったりしてしまいますが、こういうことも、プルマンならではであって、もしかしたらもう少し大きい都市などでは、「避けなければいけないこと」なのかもしれません。夜、女性だけで出歩かない、あまり知らない人にはついていかない、酔っぱらわない、昼でもひとりで知らないところを歩かない、財布を人前で出さない、大金を持ち歩かない、荷物はつねに持っておく、などなど、日本では普通にやっていたかもしれないことを気をつける、というのはもしかしたら難しいことなのかもしれませんよね。日本では誰でもどこでも財布に2、3万円くらい(これはアメリカでは余裕で大金でしょう)持っているし、ファーストフードで席を取るために、自分の荷物をポン、とテーブルに置いている人なんて普通にどこにでもいると思うし、夜にはたくさん酔っぱらっている女性を見かけるし、ああいった生活を突然ぱっと切り替える、というのは特に大学1年生のような若い女の子には難しいのかもしれません。
でも最悪のことが起こるのを防ぐには、やっぱり「アメリカ生活経験者」が教えるというのが一番効果的だと思います。「プルマンは日本のどんな町よりも安全だよ」「夜中に歩いていたって何も起こらないよ」というのは、もしかしたら本当のことかもしれません。私だってちょっとはそう思います。でも、それを日本から来たばかりの人に言うのはやっぱりよくないと思うんです。本当のことかもしれませんが、何かが起こってからは遅いと思うんです。で、私はどう言うことにしているかというとコレです。「プルマンは安全な町で、殆ど犯罪という名前がつくものは起こらないけれど、何かがおこったとき、『そんなことするあなたが悪い』で片付けられてしまうから、夜中に歩いたり、女の子だけで知らないところをウロウロしたり、意識を失うほど酔ったりするのはやめた方がいいよ」。こう言うと、だいたい、学生さんたちは割と真面目な顔をして「そうですよね」と言ってくれます。結論として何がいいたいかというと、もしこれを見てくださっているプルマン住民の日本人の方がいたら、そしてもし交換留学生(短期)と知り合う機会があるのなら、「平気平気、プルマン安全だし」などと軽くいうのはやめて欲しい、と言いたかったんです。せっかく「安全な町」として知られているところに犯罪を起こして「危ないところ」という評判になってしまのは避けたいから。
まぁ私がこんなことを書く前に、皆さんももしかしたら同じようなことを考えていらっしゃるのかもしれません。ちょっと余計なお世話だったかも。なんだか真面目な話になりましたが、大好きなプルマンなので、やっぱり「気をつけていれば防げるかもしれない犯罪」というのに日本人が巻き込まれてしまうのは日本人としても、プルマン住民としても、ちょっと悲しいのでした。スポケンの学生さんたち、無事で何よりでした。あまりひどいことをされていないことを祈るだけです。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *