また読書記録

先日に続いてまた忘れないうちに。まずは初読のものから。「対岸の彼女」角田光代:ご存知直木賞受賞作。母がテレビで見たりコラムで読んだりする彼女は好きだというので思い切り影響されて買いました。文章はすごく丁寧なのにユニークで、不思議な感じ。描写も丁寧だし、時空枠を超えた展開は、すごく混乱しそうなのに、引き込まれて行く感じで「技能」的でした。テーマは帯にあった「働く女vs主婦」という感じではなくてもっと根本的な感じ。女だったら誰でもいつか苦く暗い思いで体験したことのあることがテーマなのでちょっぴり暗くなるかも。そして「あんなことたいしたことじゃなかったなぁ」と今笑っちゃえる自分がすごく嬉しい。意外に細い糸の上の綱渡りのようなものだったのかもしれないのに。”There is a very thin line between…”という言い回しをふと思い出しました。私にとってはトピック的に大絶賛、とまではいかないけど読んでも絶対損じゃない、そういう本でした。えらそうですみません。

知食のルール」加藤ゑみ子 :読書っていうかパラパラ見るような本なんですけど、あの「お嬢様ことば速修講座」を書いた著者の、今度は食べ物に関する本。どうして買ったかというと、ものすごーーーくウンウン頷くところがあって嬉しかったからです。「えー私もそう思ってたの!」とまるで自分が思いついたかのように主張したくなるくらい共感。たとえば、忙しいからといって料理のプライオリティを下げちゃうもったいなさ、とか、和食だろうがイタリアンだろうが、何だろうがとにかく白い食器をそろえることが大事、とか洗いざらしでもなんでもいいからプレイスマット(ランチョンマット)を使ったりキャンドルを使ったりして食卓を演出するのは大事なこと、とか、常備食品のリストがある、とか、本当に、私が思いっきり実行していることが文字となって文章となって書かれているのが、本屋さんで立ち読みしていて何より嬉しくて、それでお財布のヒモが緩みました。とかいって、主婦のみなさんはみーーんな共感するようなことなんですけどね。私だけじゃなくて。

さてここから再読モノ。「緊急の場合は」ジェフリイ・ハドソン(マイクル・クライトン) :クライトン氏の本は大好きですが、いつも帰省するとこの本が近くにあるせいか、再読に再読を重ねてしまいます。それくらい面白い。この頃のお話はなんと言うか、エネルギッシュで、「映画になるだろうな」とか思わずに書いてるっぽいところが好き。「アンドロメダ病原体」も同じ頃書かれた本ですが同じ理由でとても面白いです。ジェフリイ・ハドソンというのは当時のペンネーム。他にもジョン・ラング名義で書いた本が何冊かあります。

私の童話」住井すゑ:大作「橋のない川」の著者が書いた童話集なのですが、それよりなにより後半のインタビューが秀逸です。「橋のない川」そのものは、暗く重く辛く悲しい物語で、その状況(被差別部落の)を後世に伝えるには大きな意味のある作品ですが、「この作品好き」という感じには思いづらい本ですよね。そういう意味もあって、私はこの住井すゑさんという方は何事も悟った、まるでマザーテレサのような人を想像していたんですが、このインタビューを読んでガラリと印象が変わりました。かなり、私の好きなタイプの我が強いかもしれない魅力的な人です。例えば「子育て」ということばはけしからん(子供は自力で育つ部分の方が大きいから「子育ち」であるという考えから)とか、空が青い話とか。「童話」というのはその無邪気な外見と、内容によく見受けられる驚くほどの風刺や辟易するほどドロドロした「大人」の思惑なんかが紛れ込んでいたりすることが多いもので、そのあたりをよくつかんで、さらにそれを利用して童話(と「橋のない川」)を書いたのか!と何となく、あの話が生き血の通ったものになった気がして嬉しかったのでした。

こんな考え方もある」佐藤愛子:昭和63年に出た文庫本のエッセイ集だから、実際にはそれより3、4年かあるいは5、6年前の連載だったりするのでしょう。今読むと十分「保守的」な考え方が当時はかなりの「前衛派」だったり「リベラル」だったりしたのかなーと思えるのが楽しい。でもこれだけ真面目な文章で、人をぷっと吹き出させるのはかなりハイレベルな文章力だと思うんですよね。尊敬します。

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