「ことば」という不明瞭なツール

ここ数年間、定期的に考えることなのですが、人間は種類は違うとはいえ、言語というものをあみ出して、その言語さえ通じればほとんどの意思の疎通が可能になった、ということで種として発展してきた、という事実があるのは誰でも知っていることだと思います。でも、同じことばを話すからといって、どんなに長い時間しっかり話し合ったって「なんだか分かり合えない」ということがあるのも、これも誰もが知っていることだと思います。それはもちろん、人間が基本的に、その度合いに違いはあるとは言え、嘘をつく生き物であるからというのがあります。嘘、というと語弊があるかもしれません。体裁を繕う、あるいは当たり障りのない言い訳をつける、といったそういう意味合いです。

また、たとえ嘘をつかなくても、根本的な考え方が違えば、わかり合うことが突然困難になります。例えば、「明日連絡するよ」と言ったのに連絡してこない人がいたとして、その人にとってみたら、仕事じゃないんだからそんなにガチガチに期日を守る必要がないと思っていて、その日に連絡しなかったとしますね。その人にとってみたら「明日連絡するよ」は社交辞令のようなもの、あるいは「今日は連絡できない」ということの裏返しなだけかもしれません。でも相手からしてみたら「明日連絡する」という字面通りの言葉で、次の日になって連絡がなかったとして、「連絡するって言ったから待ってたのに連絡してこない!」と怒ってしまう、ということが起こるわけですね。こういうものは、もしかしたらどんなに話し合っても、最終的に「そっかそっかそうだったんだ、あははは」と完全和解できるようなことではないかもしれないのです。なぜならそのことに関する根本的な態度と考え方がお互いに違うから。同じことを「大したこと」と「大したことでないこと」と捉えるのはあまりに違いますよね。どんなに完璧に同じ言語を話していても、言葉には限界があるわけです。

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途上国のために食品安全に投資する

今日は論文のお知らせです。2018年後半からせっせとスコーピングリビューをやってデータを出して書いていた論文がやっと出ました。30日ほどは無料でダウンロードできますのでご興味ある方はこちらからどうぞ:http://bit.ly/31Icb9U

「途上国のために食品安全に投資する」というタイトルだと、はて、何のこと?という感じですが、これにはサブタイトルがあって、「食品安全管理のためのゲノム解析活用における利点および問題点」というような感じでしょうか。つまりゲノム解析ってすごく便利で病原菌を見つけ出したり解析したりするのにすごく適しているんですね。それで先進国はどんどん技術を使っていて解析の技術も日進月歩で、しかもコストもぐんぐん落ちているんです。今や10カ国くらい国々が普通に食品の検査とともにサンプルをゲノム解析に回して、問題はなくともデータをどんどんとり続けているんですね。でもそんな中途上国は若干置いてけぼり。

結論には「スコーピングリビューおよびフォーカスグループセッションの結果より、途上国でのゲノム解析は研究分野でしか行われていないことが明らかになった。多くの途上国政府は食品安全というトピック自体を必ずしも優先順位の高い分野と考えているわけではなく、ゲノム解析技術に高額な金銭的投資をして食中毒の分析をしたり食品に含まれる有害なものを精査したりしようというところにきていないのである。このような先進国と途上国とでのゲノム解析技術利用における差は食農貿易分野に望まない格差をもたらしてしまうかもしれない。」

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炊飯と論文

Cooking rice with le creuset

今日、ふとタックスフリーのとあるお店でルクルーゼのココットロンドの24センチが110ユーロという破格だったので衝動買いし、とりあえずご飯を炊いてみました。はじめチョロチョロなかパッパ、とつぶやきながらやってみたところ、5合の大量のご飯が本当にあっという間に炊きあがりました。ルクルーゼ炊飯は実はどうなの、といつも思っていたので、ついに実験できて嬉しいです。ガスで炊くのはやっぱり美味しいよねぇと思ってはいたんですが、味に集中するからなのか何なのか、食べてみるといつもより甘くて美味しい気が、しないでも、ないです。あと、写真ではもう混ぜたあとなので伝わりづらいのですが、蒸らしたあと、蓋を開けてすぐのお米、光って立ってました。キレイ!と思わず言ってしまうほどでした。

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アドリア海の真珠、ドゥブロヴニク

Dubrovnikここのサイトに載せるのをすっかり忘れていましたが、私そういえば1月の週末に職場の日本人の知り合いの女性に誘っていただいてクロアチアはドゥブロヴニクに行ってきたのでした。写真が世界遺産の旧市街。山の上から撮影しました。クロアチアは仕事で何度も行ったことがあるのですが、行くのは仕事の都合上オシェックという内陸の町で海岸が美しいといわれているこの国の一番の魅力を味わうこともなく仕事に追われていました。なので誘っていただいたのをいいことにすぐに行く!と返事をしてさくさくっと航空券とホテルを予約してくっついて行ったのでした。真冬なので観光客がほとんどいないということで、まあそれは善し悪しだったりするのですが、それなりに楽しく過ごせました。
Dubrovnik滞在中のお天気はあいにくの状態でしたが、こちらがホテルのテラスからの景色です。旧市街が一望できてとても素敵。海は遠浅になっているようで、底まで見える美しさでした。旧市街を囲っている城壁は登って歩いてまわることもできて、私たちも例外なく数少ない観光客に混じって歩き回りました。小一時間ほどで回れるサイズになっています。城壁から旧市街を眺めると、その美しいオレンジ色に統一された屋根がすべてなんだか新しく見えます。そしてハっとするのですが新しく見えるのではなくて、新しいのです。90年代の内戦でこの旧市街は壊滅状態になってしまったのでした。上のリンク(こちらもういちど)をクリックすれば分かるのですが、一部、オレンジ色や黄色、土色などが混ざっている屋根が、実は本来の昔のままの屋根。きれいなオレンジ色のものはすべて内戦後のものなのです。ほとんどすべてです。
観光シーズンには信じられない数の観光客、ほとんどがドイツやイタリア、ロシアなどから訪れるそうです。韓国からの観光客も多いみたいですね。そんな活気のあるシーズンにも是非いってみたいと思えるほど、90%以上のお店やレストランが閉店していました。彼らにとっては冬がバケーションシーズンなのですね。
さて、全く関係のない話しですが、つい最近、ここ1年ほどああでもないこうでもないと書き直しをやらされていた論文がやっとアクセプトされたのでお知らせです。まだプルーフも来ていないので私自身が論文の最終稿をこの目で見ていないのですが、こちらがパーマネントリンクだそうです。関係者のみなさま、ありがとうございました。なんとか一段落です。

母校での光栄な表彰

[下に追記しました(2013年11月26日)]
前回のエントリーからもう1ヶ月以上も経ってしまいました。最近いろいろなことがありすぎて、ちょっと更新頻度は低めですが私はなんとか元気です。今が頑張り時です。
前回アメリカに、そして長い事住んでいたPullmanに行ったことを書きましたが、なぜ行ったかということを書いていなかったので、記録のために書いておこうと思います。この話は99.9%自慢話になってしまうことが確実なので、自慢話が嫌いな方はここで読むのはやめてくださいね。私のことを温かく見守ってくれる大事な家族や友達、知人、今までお世話になった皆さんに向けて書いています。
まずはこちらごらんください。私の母校、ワシントン州立大学のニュース:WSU News: UN food safety officer receives top alumni award(意訳:WSUニュース:国連食品安全官が卒業生アワードを受賞)
ウェブサイトはニュースアーカイブなので、後々消えちゃうと悲しいので上半分だけですけど、スクリーンショットとってみました(以下)。クリックすると大きくなると思います。
WSU_Award_Full.jpg
なんと私の愛すべき母校の卒業生組織(アルミナイ・アソシエーション)が、私が現在進行形で世界の食品安全に貢献しているということで表彰してくださったのでした。なんという光栄なことでしょう。数ヶ月前にこの賞をいただけるということを組織から教えていただいたのと、博士課程での私の教授であったV.H教授とそのご主人(彼も教授)、私をその賞に推薦してくださったV.Sさん(アメリカのフィリピン大使やアフリカの様々な国の大使を勤められたカッコいい女性です)が表彰の時にはPullmanに集まってくださるというお知らせをいただいたのとで、私も主人のAさんと一緒にバケーションついでにアメリカ旅行を計画して行って来たというわけです。
Pullmanこちらいただいた表彰状です。なんだか重々しくてすごく嬉しい気持ちになりました。表彰式が終わってお食事会の時も、ずっとずっとみなさんが私を褒めてくださったり勇気づけてくださったりするので、一緒にいた主人のAさんのほうがウルウルとなってしまっていてそれを見た私がそれからやっとウルウルしたりしてなんだかわけが分からないことになっていました。Aさんは褒められたりすると涙腺がゆるくなるタイプなので、きっと感極まったのでしょう。私はというと、日頃はなかなかウルウルしないAさんがウルウルしているのをみて感極まりました。
そして思ったんですが、こうして目に見える形として表彰していただいたり、貢献を認識していただいたりするのは本当に光栄なことですが、まわりを見渡すと何一つとして私だけでやったことはないなと、当たり前のことにまた気づかされます。V.H教授への感謝ももちろんですが、よくよく考えると、単身赴任を許してくれるどころか、積極的に応援してくださるAさんやAさんのご両親、心配しながらもいつも支えてくれる両親や姉家族など、やっぱり家族以上に私のことを考えてくれる人はどこにもいないと思うとハっとします。日常に流されていてはいけない、と心から思います。毎日毎日、みんなに感謝しなきゃ。
これからは私は支えられてばっかりじゃなくて、私が家族を支えたいと強く思っています。彼はここはあんまり読まないかもしれませんが、Aさん、いつも離れてる妻でごめんなさい。いつも本当にありがとう!
(追記:2013年11月26日)この件に関してのメールたくさんいただいています。ありがとうございます。個別にお返事させていただいています。また、食品科学学部の方からもお知らせいただき、ニュースになったということでリンクさせていただきます。上のと同じような内容ですが少し写真が多いです。
United Nations food safety officer honored with WSU Alumni Achievement Award
また消えちゃうと悲しいので、上半分だけスクリーンショットとってみました。
WSU_Award_web.jpg
以上追記でした。