Emma. (2020)

Emma. (2020) Official Trailer

成田からドーハまでのカタール航空内で、まずは6時間ノンストップで爆睡したあと、朝食のお供にしようと思ってこの映画を見ました。実は私が中学生になったばかりの頃、母が異常に分厚い(幅が3センチはあったと思うので本棚で結構目立ってました)中公文庫のエマを買ってくれて、女子中学生にはピタっとくるオースティンの話に本当に夢中になったのをよく覚えています。今までエマは何度か映像化されていると思うのですが、今、とにかく旬の女優さん、アーニャテイラージョイさんがそれはもう光り輝いているのと、映画の中の建物やお部屋、家具の色、テキスタイル、髪型、ボンネット、馬車の内装、そして胸のすぐ下で切り替えがあるタイプの当時のドレススタイルにとにかく瞬きを忘れて、食事も忘れて、終わった時には目と口が乾き切っていました。そして外せないのがミスター・ナイトリーとのあのダンス。いわゆるボールルームダンスをただただ踊っているだけなのに、目線を交わしているだけのあのシーンだけで、お互いに恋愛感情がこれ以上ないくらいに燃え上がるのを他の何よりはっきりと表現できている、というのが衝撃的でした。あのダンスの間、結構長いこと息を止めて観てました。映画全体の私の評価はA-です。フランクチャーチルの役の人が私が中学生の時から育ててきたイメージと全然違った!というどうでもいい理由でマイナスがついています。とはいえ、ミスター・ナイトリーも出てきた瞬間は、ん?という気持ちにならなかったというと嘘になりますが、シニカルで批判的だけれども、いつも紳士で、エマとも対等で温かいミスター・ナイトリーをまるで本人の素のように見せていただけたので、だんだん彼がミスター・ナイトリーにしか見えなくなってきて、それで充分満足なのでした。

ところで、イギリスには仕事柄何度か行きましたが、2009年に母と初めて一緒にウィンブルドンに行ったときに、せっかくだから観光もしよう、ということになってポートベローの市場散歩をしていて、露店の古本屋さんをぷらぷらと見ていたら、1800年代後半に発行された「エマ」を発見したんですね。どんな英語なんだろうとパラパラと読んでみたら、いやぁ1800年代の英語、難しいです。難しい、というのがどういうことかというと、単語が難しいとかではなく、全体的なセリフを含めた文章の言い回しが大変に古風でまどろっこしく、日本語に訳するのが大変そうな英語、という感じでしょうか。翻訳者に本当に頭が下がります。もはや芸術の域ですよね。そして当時の活版印刷と製本技術の特徴なんだと思うんですが、いわゆる「キャッチワード」が各ページに印刷されているんですね。ここにキャッチワードの説明があったので載せておきますが、つまり、製本をする人が、乱丁、落丁をしてしまうのを防ぐために、印刷の時に次のページの最初の単語をページの一番下に印刷しておく、というものです。

London

上の写真はイギリス旅行から帰ってきた後に、母が私にくれました。私がエマに夢中になっているときに盗撮してくれたそうです。私は、黒い服を着た女性の奥で、サングラスを頭に乗せたバブルみたいなスタイルで立っているんですけど、母が写真を撮っているなんて全く気づきませんでした。今ちょっと思ったんですが、私は本を読み出すと周りが見えなくなって一緒にいる人に迷惑をかけるタイプなので、もしかしたらこの時、母と一緒にいることをすっかり忘れて数十分以上(1時間とかじゃないことを祈る)ここに立っていたのかもしれません。お母様、お待たせして本当にごめんなさい。この時のエマはどうしても欲しくて、結構なお値段でしたが購入しました。せっかくのクラシックブックなのに旅行中にどうしても読みたくなって、ちょっと背表紙の傷みがあったのに毎晩読んでいました。今頃はつくばの本棚に鎮座しているはず。

映画ですが、ジェインオースティンがこの長編で完璧に描ききった、非常に英国的でブラックで皮肉なジョークが本当にぴったりに映像に表現されている、と私は思いました。ポッシュでスノビッシュな態度って、嫌味なんですけど笑えるし憧れる、というなんともいえない面がありますよね。今、「ポッシュでスノビッシュ」を日本語にしてみようと努力しましたが無惨に失敗しました。直訳は「上流階級でお高くとまった」のような感じになるとは思うんですけど、なんか違う!ポッシュは皮肉ではあるんですけど、実は褒め言葉でもあるんですよね。スノビッシュも悪い意味ではあるんですけど、そこに実は本来の教養がある、という意味もあったりすると思うんですよね。あなたのそのなんだかポッシュなドレス素敵ね、と言ったりするし。と書いて今思いましたが、熊本弁だとその通りの言葉がある!「なんな今日はえらいうったっとんなっですな、どけいきなはっとね」です!意味は「どうしたんですか、今日はとても立派なお洋服でどちらに行くんですか」という感じでしょうか。褒めながらイジっている感じのある方言です。なんか脱線の仕方がすごいですけど。

洋服繋がりですが、本当にさまざまな素敵なお洋服が出てくるので、私としてはこれをみた人と永遠にどの服が好きだったかを語り合いたい。白いフレンチスリーブにピンク色のワンピースを重ね着しているものとか、レースの襟のVネックにブラウンストライプのボレロとか、くすみピンクのディテールボタンが可愛いドレスとか水色に薄い茶色のジャケットとか。黒いドレスに合わせた重ねた細い珊瑚のネックレスとか、鼻血出しちゃう時に着ていた白にグリーンモチーフのドレスとか、ブティックにお買い物に行った時の目の覚めるような山吹色のセットアップとか、もう本当にちょっと見して貸して触らして!という気持ちでした。胸下の切り替えは当時は当然のものだったらしく、上記の母が買ってくれた文庫本の表紙もピンク色のそういったドレスを着てボンネットを被ったエマが描かれていたと思うし、ジェインオースティン自身の肖像画もそういうスタイルのドレスを着ている気がします。みんな華奢でとても可愛らしいです。

主演のアーニャさんですが、最近ではネットフリックスのクイーンズギャンビットのベス役もすごくハマっていました。個性的なお顔ですが見れば見るほど目に吸い込まれそうになりますね。ダンスのシーンだけでも見る価値があると思います。かなりおすすめです。この上から目線主人公は、ジェインオースティンもなかなか気にいるんじゃないかと思わせてくれました。できたらもう一回観たいです。

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