風と共にゆとりぬ

風と共にゆとりぬ(2017、朝井リョウ):キンドルで「時をかけるゆとり」を一気読みした後、速攻買って読みました。この方のフィクションの方の本は、まるで一人称のような三人称で、わかりやすい形で「今」を切り取るような視点だと思って読み始めたのを思い出します。でも実は意外に難解な形で切り取ってあったりして、個人的には割と何度も読み返して「うわー、ほんとだ!」と思ってしまうようなお話が多いんですよね。ちょっと分かりづらいかもしれませんが、例えば「意識高い系」の人を登場させて、それに「同調系」の人だったりそれを「イジる系」の人々が登場し、さらにそれを「鼻で笑う系」がいたりするのに、結局最後はその「鼻で笑う系」の人の心の動きが「同調系」の人のそれと何も変わらなかったりして「おおなるほどそういうことか!」と気づかせてもらえる、という感じでしょうか。私の表現力が無さすぎて自分で書いていてちんぷんかんぷんになりましたが。とにかく分かりやすく才能に溢れているという意味では読みながらさすがだな、間違えないな、といつも思います。

で、エッセイの方はどうかというと、実はこの方は自分が陰キャだと主張したいけれど、どうしても隠せない陽キャだ、と思いました。最後の3分の1はお尻の話に終始していて、それに笑いながらも大変だなぁと普通に心が痛みましたが、前半は割と前のエッセイに比べて「若者」寄りというよりは「大人」寄りな著者に驚きました。これで伝わるかどうか分からないのですが、そういう意味では指原莉乃さんと同じ匂いがします。若者なので若者っぽくふるまっているんだけれど、それを冷静に見ている大人な自分がちゃんといて、その大人な部分が実はちょっと恥ずかしいのが本人にも分かっている感じ。読んでいて細かい部分でお!と思ったのは:

まず「私の書いている小説は、物語のスライドショーとも言えるあらすじが抜群につまらない。」のところ。いやこれは実は本質ですよね。物語にしろ人生にしろ、始まりがあって、途中があって、終わりがあるわけですよね。つまり誰の人生であっても、結局は、生まれて、生きて、学んで、失敗して、成功して、出会って、別れて、いいことを経験して、悪いことも経験して、死んでいく。そのあらすじ自体は切り取ってみると別に普通で、その隙間の出来事の方が実はメインなんだよ、とそういうことですよね。私も、もう少しそういうものが見えたり聞こえたりするような感性を持ちたいと思いました。著者には「いやいやそこまで考えてない」と否定されそうですが、多分そういう感性を自動的に持っているので必然的に見えちゃうし、聞こえちゃうんでしょうね。

あとは「あまりにも久しぶりの『友達発生』という現象の尊さに、くらっと来るほど嬉しくなってしまうのだ。」分かります。35歳くらいからくらっとくるようになりました。

笑ちゃったのが「両親から『いいね!してよ』と写真の賛美を迫られたという。」いやいや、私も夫と姉と両親に毎日迫りまくりです。「見た?見てー!いいねしてー!」の連呼です。でもちょっと違うのが別に自分のリア充を見せつけたいとかそういうのはないんですよね。近しい人々とはなんでも共有したい!という異常なやや変態的な気持ちです。他人にはそんなにそういう気持ちにならない。でも仮に、私の私生活を延々と見せつけられる他人の状況があったとして、それを考えると大変申し訳ない気持ちでいっぱいになるので、絶対に他人にはそういうことはしまい、と心に固く誓いました。見たい人は勝手に見て、というスタンスでいよう。

ちょっと真面目なところで「ただ、客観性、これが宿った途端、主人公としてのスター性は消滅する。」というところはなるほど、と思いました。作家の目線ならではですね。物語を説明するために登場人物に客観的に物事を見せちゃうとその人自身がやたら冷めた人になっちゃうわけですね。でも冷めた人もそれはそれで魅力的ですけどね。例えば「発注いただきました!」の最後に掲載されている短編「贋作」の主人公なんて、みんながピュアで心細い感じの中、冷静な彼だけ安心できて、とても素敵でした。このお話は心にとどまりすぎて、ちょっとびっくりしました。こういう新しい「やっぱり!」みたいな「嫌な感じ」を切り取ることができるなんてすごい。自分(あるいは他人)の中の気づかなかった嫌な部分を見られたような気分がしました。

そして最後に「本は、言葉とともに、視点を与えてくれる。」これは前に私もブログで書いたので大きく頷くしかないんですが、本を読むことそのものがが解決の方法になったり糸口になったりするかと言われると、そんなことはもしかしたらとても少ないことなのかもしれなけれど、著者が言うように「心が一点からの圧力によって押しつぶされそうになったとき、目には見えない盾を構築する要素にはなってくれるはず」というところでさすがだなぁと思いました。良いエッセイでした。

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