Camino Island(グレート・ギャッツビーを追え)

Camino Island (2017, John Grisham):英語でペーパーバックで読みました。実際に読んだのは2年ほど前なのですが、つい数週間前にAさんが興奮気味に「グリシャムのギャッツビーが村上春樹氏で出たらしいよ」と、初聞では全く意味不明のことを言うので、ぽかんとしてしまったんですが、妻として言葉足らずの彼の言葉を補うとすると、「(あなたの好きな作家であるジョン)グリシャム(が書いた小説)の(ザ・グレート)ギャッツビーが(テーマになっている推理小説を)村上春樹氏(が日本語訳をしたものが、最近日本)で出たらしいよ」と言う意味だったんですね。そう聞いて、おお、と、2年前に読んだこのカミーノアイランドのすごくよくできたプロットを思い出したので、そういえば面白かったな、いろんな有名な作家の話も出てきて、魅力的な登場人物がいっぱい出てきて、作家の世界ってこうなのかな、とふと思ったな、と色々考えたので今週再読しました。村上春樹さんの邦訳は「グレート・ギャッツビーを追え」と言うなんだかハードボイルドなんだか子供っぽいんだかわからないようなタイトルになってましたが、これはギャッツビーと春樹氏のコンビネーションがグリシャム読者層ではない人を捉えるかもしれない、と言う出版社の思惑が見え隠れするので、村上氏のつけた邦訳、と言うわけでもなさそうなんですけど本当のところはどうなんだろう。

まずグリシャムファンとして思うのは、これは彼の今までの分野ではない、と言うこと。法律の専門家は私が覚えているだけで一人しか出てこないし、その人は「ていうかロースクール行っただけだし」みたいな適当なことを言う人だった気がします。そして結構驚くのが、カミーノアイランドの描写に結構ページ数を割いてあって、それが、こんなこと書くと改めて違うような気もしますが、島崎藤村を彷彿とさせるような絵というか写真のような描写が結構延々と続くんですね。まぁまぁうっとりします。初読時に、多分ですけど私はこの本をシンガポールのホテルのプールサイドで読んだので、そのイメージもしっかりついています。後半ウミガメの産卵風景もしっかり描かれているのでその印象も強いです。

最初に泥棒グループが出てきて、黒幕グループが出てきて、魅力的な女性の主人公が出てきて、そしてカミーノ島のおきらくなクリエイティブ集団が出てきて、FBIのチームが出てきて、その全ての登場人物がある程度魅力的なので、読みながらだんだん心配になってきます。グリシャムのパターンだと弱いけど正しい人がじわっと勝つような結末が多いので、あれ、これってどうなるの、天下の大捕物という感じで終わって欲しくないな、と何となく誰に味方していいのかわからなくなるんですね。推理小説とかハードボイルドとかそういった感じというよりは、ダヴィンチコードのような謎解き感があります。

意外にも私が一番静かな衝撃を受けたのは、最後の方のあの週末の部分でした。ネタバレになると悪いのではっきりは書きませんが、あれって、結末を全部読んでから考えると、なんだか完全に負けた感じですよね。私が女性だからそう思うんでしょうか。男が描く女主人公だからこういうことになっているんでしょうか。女性って、あの状況だったら「最終的にはどうにかして勝ちたい」というか「タダでは負けない」というふうに思うものだと思うんですけど、違うのかしら。もちろん、主人公がそもそもBのフランス人の奥様との関係に共感するタイプだとしたら納得いく筋書きなんですけど、共感してませんでしたよね。カミーノ島に行ったこともない全く関係ない私がなぜか、謎の負けず嫌いを発揮してしまいます(そういえば私は単なる読者だった!そしてそういえばカミーノ島そのものが架空の場所だった!)。ああいうのって全然ロマンチックに思えないし、別に個人が自分で思うように好きなように行動すればいいので、道徳的にどうだこうだ言うつもりはないですけど、女性の精神構造って、あんな感じではないと思うんですよね。割り切るには確固とした決断力ともうちょっと強い自己コントロールが必要というか。まぁ強かった、ということなんでしょうか。だからこそさよならも言わずに去ることができたんでしょう。でもそういう部分も含めてなんとなく男っぽい感じでした。でもフランス人のあの人は奥様というよりはビジネスパートナー、ってことなんでしょうね。このお話、どうやら続編っぽいものがあるらしく、Camino Windsという本が来年の頭に出るみたいです。チラッと見てみると、今度はやっぱりBが主人公になってそうな感じですね。まあカミーノ島のみなさん魅力的でしたもんね。あの設定でお話を続けたい、というのは分かる気がする。

ちなみにグリシャムさんはまさか自分が小説に書いたところと同じところに、現実の世界でフィッツジェラルドの直筆原稿が保管されているとは知らなかったらしく、こんな小説にうっかり真実を書いてしまって、多方面にご迷惑をおかけした、と後書きで謝っていて笑っちゃいました。プリンストン大学も、そんな、有名作家に空想でネタにされるようなところにそんな大事なもの置いておいたらダメですよね。全体的に新しい感じで面白かったです。続編も読もう。

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