ひとかげ

ひとかげ(2013、よしもとばなな):図書館で借りて読みました。たまたま今、電子書籍で読んでいるのがよしもとばななさんの本だったのでちょっと気になって手に取った感じです。実はオリジナルの「とかげ」も読んだことがなく、巻末にちゃんと収録されているのがとてもありがたかったです。そしてどっちから読むか、うんうん唸って5分くらい考えた挙句、著者がこの順番で載せているので「ひとかげ」から読むのが正解だろうと考えてページを開いたのでした。よしもとばななさんは実はイタリアでの評判がすごく良く、私の友人の数人を挙げただけでみんなしっかり知っているだけではなく私よりもずっと深く読んでいて、何がイタリア人の心を掴むのかなぁとぼんやり思っていました。私にとってみると、よしもとばななさんの本に出てくる数々の登場人物の「不幸度」のようなものがだいたい激しくぶっ飛んでいることから、私のように穏やかに幸せに甘やかされて生きてきた身には、自分と比べるどころか、想像すらできない状況にあって、そういう登場人物を描くタッチが「冷たい」とすら考えていたんですね。あのクールな感じはイタリア人の熱いハートに何か来るものがあるのかもしれません。

そしてこれを読んで、心の底から「なるほどな」と思いました。著者本人が、オリジナルの「とかげ」に対して、仕事や大事なものに対する思いが浅いと感じているのです。無駄を省くあまりにクールになりすぎている。そしてこれは「ひとかげ」に新しく挿入された部分だと思うのですが「…と思うと、げんなりする。そして人間はみんな同じだ、と思う。淋しいのが嫌いで、愛されたい。そこがこじれるとその隙間にひゅっと何かが入り込んできて、どこまでも邪悪にふくらむ。」というところがあって、ああそうだ、物事の大小はあれど、本当にその通りだ、私はそういう風にほんの最近、初めて思ったんだった、と思ったんですね。それでやっぱりよしもとばななさんが若い時にそう思ったと思えない、と思ったのですごく納得なのでした。「私」の性別や年齢も含めていきなりクールに書いていないところ(オリジナルはしっかりクールに書いてある)も良い、と本気で思いました。あとこれはどちらもあるのかもしれないけれど、「ぽっと胸の中に明かりが灯ったのがわかった。」というところも好きだと思いました。あとシンガーの「短かい金曜日」の部分も良かった。シンガーの短編集をアメリカで何度も読んだ記憶がふっと蘇ってきました。

最近、Official髭男dismさんがすごく売れていて、私もすごく好きなんですが(夫と姉家族とみんなで9月26日のアリーナライブ参戦しましたよ)、あの方々は、未曾有の才能を持っていることが、非常に大衆に分かりやすい形で惜しげもなくパーっと開かれているところが魅力ですよね。そんな感じでよしもとばななさんの紡ぎ出す文字の塊がとってもわかりやすい形で、この方にしかできないと思わせられてしまうところが、ありきたりな言葉で言ってしまうと、素晴らしいな、と思ってしまうのです。ひとかげというタイトルも「ひ」を付けただけで急にほんわかとして、それはそれで大人のクールさもあって、私はこのバージョンを素敵だと思いましたよ。短編ですが新旧読み比べてみるのもそれなりの新しい趣があって楽しめました。

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