ブータンの城塞、雪峠、石風呂、そして織物

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今日は2020年3月上旬に(また)行ったブータンのお話です。上の写真はブータンの国際空港があるパロという街のホテルの敷地内から撮影したものですが、遠くでライトアップされている大きな建物が「ゾン」と呼ばれるいわゆる城塞です。ブータンではそれぞれの行政の単位をゾンカ(正確には「ゾング・カグ」と書きますが聞いているとゾンカに聞こえます)と読んでいて、この辺りはパロのゾンカ、つまりパロ行政地域となっていて、このゾンがその庁舎というわけです。庁舎といっても、そもそもは僧侶たちが仏教抗争の末、身を守るために建てたものであるので、過去には要塞としての意義の方が大きく、周囲を見渡せ、攻撃も受けづらいようなところに建っていることが多いわけです。そしてもちろん、僧侶が使うところであるので、たいていのゾンカは行政の部分(庁舎)と宗教の部分(地区の総本寺)を合わせもっていることになります。

ちなみに上の写真でパロのゾンカの右上にカラフルに光って見えているのはブータン国立博物館です。去年の8月に秋篠宮家がブータンにご旅行に行かれた時のニュースに添えられたご家族三人でのお写真がこの博物館のお向かいにある小さな渡橋のところだったので「お!」と思ったのを覚えています。ちなみにその時私もブータン にいたんですが、帰りの飛行機が紀子さまと悠仁親王と一緒でした。だから何ってこともないんですがしばらくザワザワしたあと高度が上がるといつものように爆睡してしまって何も覚えていません。下の写真がその博物館のお向かいにある建物で、青っぽい装飾が施された渡橋が見えるかと思います。

さて3月のパロはもう分厚いコートは必要なくなってきているのですが、ちょっと山に登ればあっさり雪が降っているよ、と言われ、ふーんそうなんだ、と普通に思っていたら、いつも親切過ぎるブータンの皆さん、翌日朝5時集合をかけて私を山まで連れていってくれました。というのも3月の出張時は私は時間がなさすぎて、観光だったりブータン を楽しんだりする暇はほぼないというキツキツのスケジュールだったんですね。だから、私を外に連れ出すには早朝か夜しかないわけです。で、ワークショップが始まる9時までに帰ってこれるように5時出発で高度が余裕の富士山頂上超えの3988メートル(!)であるチェレッラ峠まで連れていってくれました。

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こんな感じでガチガチの真冬がここにありました。すごく酸素も薄く、私は高山病などの経験もないしそういう意味では体が鈍感だったのですが、さすがにはしゃいで大声でお喋りしてると謎の息切れを起こし、自動的に息を吸いながらの発声になるので、なるほどそうか、酸素が薄いのか、と納得しました。チェレッラ峠は「パロ」と「ハ」という町のちょうど真ん中くらいにあります。

そしてその日のワークショップが終わった時に、数年来の友人でありプンショーリンというインドとの国境の町に住むニムが「ドクター、今日は朝から寒いところに行ったから夜はみんなでホットストーンバスに行きましょう」と誘ってくれたので、おおそれはいいね!となって一緒に行ってきました。実は私はブータンでのホットストーンバスは2回目で、前回は去年の5月でした。前に連れていっていただいたところはわりと高級っぽいところだったのでなんの違和感もなく熱いお風呂を楽しんだのですが、今回はちょっと庶民派というか、ブータンの国技であるアーチェリーフィールドの裏にある掘立小屋のホットストーンバスに連れていっていただきました。予約をしてあるのでお風呂はすでに準備していただいているのですが、ひとまず温度を確かめる間に下の写真の焚き火のところに行きます。

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おなじみブータン 犬がいるのでワンちゃん大好きな私もいきなりほっこりしますが(皆さんは海外では絶対に野生の動物に触れないようにしてくださいね、私の周りには大抵ブータンの政府公衆獣医さんがいて、どの野犬が狂犬病ワクチンをいつ打っているか、耳の印と首輪で教えてくださるのです)焚き火の中に大きな岩がゴロゴロとあるのが分かるでしょうか。これがいわゆる「ホットストーン」部分ですね。原始的にこうしてアツアツに熱してお風呂に入れるわけです。ここでお茶をいただいたりレモンウォーターをいただいたりしながらお風呂が準備できるのを待ちます。そしてどうぞ、と通されるのが一人ずつカーテンで仕切られた更衣室。

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まあ普通に日本の清潔なお風呂から考えるとちょっとだけギョッとする方もいるかもしれませんが、私はもはやいろいろな感覚が麻痺してしまっているのか、こういう風にきちんといろいろ並んでいるだけで、わ、キレイじゃん、と思ってしまいます。ここでバスローブ(持参)あるいはバスタオル巻きつけの状態になり、用意されている微妙なビーチサンダルを使って共用の廊下をささっと横切り、今度はお風呂のあるところに入るわけです。お風呂も入り口はカーテンで仕切られていますが横はしっかり壁で仕切られているので意外と大丈夫です。

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ちょっと湯気でソフトフォーカスかかってしまっていますが、お風呂に浮いているのはハーブやお花などです。基本的には月桂樹のようなものやレモングラスのような香りの強いものが入っているのでお湯が濁っていますがとてもいい香りがします。奥に網のような仕切りがあるのが見えるでしょうか?お湯自体はここから先50センチほど続いているのですが、この網の上部5センチくらいが隙間になっていて、奥のお部屋の方と会話ができるようになっているんです。どんな会話をするかというと「もっと石を入れてください(熱くしてください)」とか「ちょっと熱すぎるので水を入れてください」とか「飲料水を買いたい」とか「お茶ください」とかそういった会話ですね。すると管理側のかたが「ハイハイ」とやってきてアツアツの石をジュワーっと網の奥の浴槽部分に入れてくれて、それがこっちにも熱として伝わってくる、という仕組みです。個室は5個あったので、前述のニム、お仕事のメインの担当者のジャンベイとあと2人のブータン 人5人と全員で1時間強お風呂を楽しんだのでした。私にとってはペットボトル2本分1リットルしっかり水分とりながらの長風呂となりました。

私の出張はやはり空港からホテル、ホテルから仕事の会場との往復、ホテルから空港に戻って帰る、というパターンがどうしても多くなるので他の国ではよっぽど政府の担当の方が親切でない限り仕事以外の楽しいことはなかなかないのですが、ブータンではこうして数時間でも、と朝から夜まで皆さんが色々と考えて私にお付き合いしてくださるのでいつも大感激します。最後の日も前回の出張の時に行けなかったテキスタイル美術館のことを覚えてくれていた担当者が、最後の日の宿泊をわざわざパロから1時間かかる首都のティンプーに設定してくれて、ワークショップが終わったその足でティンプーに行き、その美術館をさっと45分ほどで案内してくれてからお食事に連れていってくれたりするので効率よく楽しいことも出張に入ってくるので感謝感激でした。下の写真がそのテキスタイル美術館で織物を習っている若い女性たち。

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この伝統織物、観光客にも通えるなら教えてくださるということでしたよ。今このような世界的な状況下でブータンのプロジェクトもちょっとだけ止まってしまっていますが、先々週からオンラインでできることをやっちゃおうということになってゆっくりですが進展もあります。現地に行けないので実際に状況を見ることができないのはちょっと残念ですが、ブータンには勤勉でどんどん仕事を進めてくださる方が多いので、安心して任せられています。でも本音を言えばプロジェクトが終わる頃にはまた行けたらいいな。ブータン 本当にいいところです。

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