ノロウィルスと集団の関係

ノロウィルス、どうやら日本ではホットトピックみたいなので久しぶりに専門的見解なんて書いてみようかと思います。まず、「ノロウィルスなんて初めて聞いた!」と思う人も少なくないんじゃないかと思います。でも、実はこれ、別に新しいウィルスなんかじゃありません。昔からいるウィルスです。ただ、名前が統一されていなくて混乱のもとだったのでした。
顕微鏡で覗くと、小さい丸い形をしたウィルスなので、このような形をしたウィルスのことをSRSVs (Small Round Structured Viruses) と呼びますが、その種類のひとつ、カルシウィルス(Calciviruses)の仲間かな、と思われ、調べ始められました。が、どうやら科は同じだけれども、最終的に全然違う属だ、ということだけが分かったので、統一されないまま、そのウィルスが発見された場所、あるいは集団感染した場所の名前を付け始めたら、収拾がつかなくなってしまったんです。


アメリカではNorwalkやMontgomery Countyなどで集団感染があり、HawaiiやSnow Mountainでもありました。イギリスではTauntonやMoorcroft、Barnett、Amulreeなどで見つかっていてそのウィルスにはそれぞれその土地の名前がついています。そして驚くなかれ、もちろん日本でも発見されていて、SapporoとかOtofukeなんて名前がついているのもあります。Sapporoはかなり有名でアメリカの微生物学者であれば間違いなく知ってます。で、一番広く知られているのがNorwalkだったので、今までは一般的にthe Norwalk virus familyだとか、the Norwalk-like virusesだとか呼ばれてました。
それで、このままだと、本当に混乱の元になる、と学者さん達が急に立ち上がり、ほんの数年前に、「よし、これらのウィルスを全部まとめて、Norwalkの名前を半分とって、”the Noroviruses”と呼ぶ事にしよう!」と決めたんです。そこでそれがカタカナになってノロウィルスとなったわけでした。CDC (Center for Disesase Control and Prevention) の定義によると:

Noroviruses (genus Norovirus, family Caliciviridae) are a group of related, single-stranded RNA, nonenveloped viruses that cause acute gastroenteritis in humans. Norovirus was recently approved as the official genus name for the group of viruses provisionally described as “Norwalk-like viruses” (NLV).
ノロウィルス(属:ノロウィルス、科:カルシウィルス)というのは連続した一本のRNA構造、ノンエンベロープ型構造で、人間の中に入ると急性胃腸炎を起こすウィルスのグループである。ノロウィルスは近年正式な属名として、今まで使われていた”Norwalk-like viruses” (NLV)の名前を置き換える形で認証された。

ということになっています。すんごい直訳のような意訳ですみません。で、ここからが重要なので、箇条書きにしてみます(文章でだらだら書くより箇条書きのほうがキャッチーだという研究結果をつい最近見たのでマネしてみます)。

  • ノロウィルス感染の症状は、一般的に深刻ではない。
  • 他の菌やウィルスに比べると、臓器に恒久的な影響を与えたり、死んだりすることはまれ。
  • ただ、症状は「深刻にみえる」。
  • 1日に何度も吐いたり下痢をしたりする。
  • 幼い子供、老人などが感染すると一気に深刻になる。
  • 幼い子供、老人などはノロウィルスが直接原因で死ぬわけではない。
  • ほとんどの場合は吐いたり、下痢をしたりしたときの脱水症状から死亡に至る。
  • 他にも免疫系が弱い人(エイズ患者、臓器移植経験者、抗がん治療患者、妊婦など)は症状、結果が深刻になる場合がある。

そしてこれはちょっと「うえぇぇ」と思うかもしれませんが本気の事実なので書きますが、

ノロウィルスは、ほとんどの場合、「人から人へ」や「ウンチからお口へ(Facal-to-Oral)」、「お口からお口へ(Oral-to-Oral)」などの経路をたどる!

ぎゃーという感じですが、つまりですね。ノロウィルスがついている物をさわった手で何かを食べたりすると感染するし、それで握手なんかしちゃって人にもうつしちゃったりもするし、とにかく人間が普通にやりとりできちゃうウィルスなんです。これらの経路をたどらない数少ない経路は、「水」です。海の水、川の水、などなどちゃんと飲み水として安全を確保されていない水にノロウィルスがいることはあります。ので、もちろん、生の魚介類はノロウィルスのリスクはあります。貝類(クラムやオイスターなど)エビ、カニなどのいわゆる「シェルフィッシュ」と言われる食べ物が一般的にリスクがあると言われています。
でも本当に多いのは人から人、ウンチからお口、お口からお口です。一番分かりやすい例なんですけど、ノロウィルス集団感染はなぜかクルーズ船なんかで起こりやすいんです。どうしてか。

  1. ノロウィルスは少量だけれどもだいたいどこにでもいる。
  2. クルーズ船で誰かが船酔いする。
  3. 船酔いしつつもレストランで食事をする。
  4. 食事中に気分が悪くなりトイレまで我慢できずにうえーとやってしまう。
  5. そのうえーにノロウィルスが入っている
  6. 従業員がお片づけをする。
  7. その従業員に濃度の高いノロウィルスがくっつく
  8. うえーが飛び散ったあたりにはノロウィルスがものすごい速度で繁殖している。
  9. 誰もが手をあらう訳ではない。
  10. 従業員もそのまま他の客に接したり食事を運んだりすることもある。
  11. 周りの人も手を洗う人洗わない人といて、いろんなところを触ったり物を食べたり握手したりする。
  12. 集団感染となる。

という経過になるからなんです!汚い話ですみませんね。でも本当の話なんです。つまり、Oral-to-Oralというのはそういう意味なんです。レストランの座席表を書いて、ノロウィルス感染したひとに「どこに座っていましたか?」と聞くと、面白いほどに、その「うえーーとやってしまったひと」を中心にして感染が広がっているんですよ。実際に研究者はちゃんと座席表を書いて調べたりします。
そしてクルーズ船といえば、やっぱり海鮮のお食事もたくさん出るんでしょうね。リッチなロブスターとかね。そのあたりも、リスクを高めているといえば高めているかもしれませんね。
Facal-to-Oralは考えるのも書くのもイヤですが、仕方なくドライに書くとして、従業員さんに限らず、だれかがトイレにいって手を洗わずに過ごしていると、普通にどこかでノロウィルスというのはくっついてくるものなんです。ただウィルスの量が、人を病気にさせるほどではないんですが。でも集団が寝起きを共にしている場所だと、濃度が濃くなっていくのは分かりますよね?手を洗わない習慣のひとはきっといつでも洗わないんだろうし。それであるとき人を病気にさせるレベルの量になっているというわけです。まあ、ウィルスですから、その「量」というのは一般の菌よりも低いレベルで症状が出始めるかもしれませんが。このあたりはまだ研究が進んでいないので未知ですね。菌が検出された人でも発症しなかった人は結構います。
と、まあこういう理由で、ノロウィルスというのは集団で感染しやすいんですよ。そして、お年寄りがいっぱいいる病院、老人ホーム、子供達が一杯いる幼稚園、保育所、などは目立ちますね。症状がひどいし、亡くなる場合もあるから。そして社員食堂、レストランなども「集団」がかかりやすいという意味で発見されやすいわけです。
で、結論。

手を石けんでしっかり洗いましょう。

あーあ。いつもなんですけど、私の研究ってどんなに難しく頑張っていろいろやっていても、一般消費者に伝えるときは、「そんなの分かってるよ」という結論になるんですよね。なんだか悲しい。でもこれって本当の事なんです。
具体的にノロウィルスを避けるには、あるいは、ノロウィルス感染後に事態を悪化させないようにするには、

  1. 手を洗う。
  2. 手を洗う。
  3. 手を洗う。
  4. 処理されていない水は飲まない。
  5. 魚介類の生食はリスクを承知の上で。
  6. 近くで誰かがうえーとしてしまったら、そのへんのものは食べない。
  7. お年寄り、子供のいる家庭では、腹痛、吐き気などの症状のときは水分をたっぷりたっぷり、多すぎてもいいくらいにとりましょう。
  8. そして手を洗う(しつこい)。

といったところでしょうか。でも、手を洗うって言っても病的に何度も何度も洗え、ということじゃないんですよ。ポイントを押さえるのが大事なんです。とにかく食事の前、トイレのあと、上から出るものや下から出るものに触れた可能性がある時、帰宅直後、とポイントだけ押さえればいいのです。人とは握手しない!エレベーターのボタンはさわらない!とか、結構ポイント外してますよ。

2 Replies to “ノロウィルスと集団の関係”

  1. Masamiさん!
    あたしにとってもめちゃhotな話題です!(笑)
    本当に今まで聞いたことなかったし、「あたしは大丈夫」って思ってましたが、どうやらあたし、ウイルスもらっちゃったかも?なのです。
    この時期に生牡蠣を食べてしまって。。。
    10人くらいの仲間での食事やったんですが、「ノロウイルス感染」と診断された人がいるらしく、だんなもあたしも軽い症状ですが、上から下からと出しております。(すいません、この表現!笑)
    ココの記事、興味深く読ませて頂きました。やっぱり以前からあったんですね。あたしも手洗い、いつもよりも頑張ってしますね!(笑)
    Masamiさんのこの記事、リンクさせていただきます! 不都合ある場合はおしらせくださいませ。

  2. NAPPIEさん:それはそれは大変でしたねー。もう大丈夫ですか?ノロウィルスは、症状がおさまってもしばらく上と下のものに(失礼)微量に入っている可能性があるので、トイレのあとはかなり念入りに手洗いすることをオススメしますよー。30秒から1分くらい、石けんで肘あたりまで洗って(これがすっごく長く感じるんですけどね)、温水があれば温水ですすいで、しばらくはペーパータオルなどで手を拭くと良いと思います。2週間くらいかな。
    生牡蠣はやっぱり最近ちょっとこわいですね。実はカキフライも、しっかり火が通っているわけではない場合があるので注意が必要です。牡蠣はノロウィルスだけじゃなくて、ビブリオや肝炎ウィルスなどさまざまな菌が入っている可能性があります。肝炎ウィルスだった場合は、再発(次に牡蠣を食べたときにアタる)確率が、食べるごとに上がっていってしまい、最終的に肝炎になってしまう可能性があるので、牡蠣であたったときは一度病院で検査してもらっておいたほうがいいかもしれません。万一、肝炎ウィルスが出た場合は、もうこれからは生ガキはあきらめたほうがいいかも。
    肝炎ウィルスじゃなかった場合は、恒久的な影響がある可能性は低いので、体調の良いとき、9月以外の”er”の付く月(October, November, December)だけ、新鮮だと分かっている牡蠣なら食べるようにする、と思っておくといいかもしれません。
    生ガキ、とろりとしていて美味しいしあきらめるのなんてイヤだ、という人はわりといると思うので、しっかりリスクを把握して自己管理を覚えておくと痛い目に合わずにすむと思います。って、なんか食中毒教室みたいになってしまいましたが、つい熱くなってしまいました。お大事に!

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