State of Fear

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State of Fear (Michael Crichton):マイケルクライトン、待望の(?)新作です。まだ数チャプター読んだだけですが、さすがですねぇ。年をとっても、どんなに批難されようと(監督業とかプロデューサー業のことですか?ER売れまくったじゃないですか)、私は普通に好きです。世の中のみんなが気になるトピックを上手にとらえてお話をつくっていて、私は単純に、この人はその「ん!これがこうなったりして!」なんて想像して話を作ったりするその作業自体をとても楽しんでいるんじゃないかと思えて、その楽しそうな感じが大好きなんです。[ 洋書籍 | 日本語訳書 ]

追記(2005/2/24):日本に帰る飛行機の中で読んだので読み終わりました。すっごく面白かったです。感想はこのずっと下の方に詳しくあります。

前作のPrey(邦題も「プレイ-獲物-」でした)では、ちょっとだけ世間の興味より遅れてしまいましたが、ナノテクノロジーのコンセクエンスが、多少想像力ありすぎとも言いますが、ちゃんと警告的になっていたし、今回もブッシュ大統領が言い切っている、「起こっていない」地球温暖化がテーマですね。ぐぐぐっと引き込まれます。邦題はまだついてないみたいですね。”State of Fear”って邦題つけづらそうですよね。ああ、ペーパーとかいろいろやらなければいけないことだらけなのに、夢中になってしまいそうです。

追記(2005/2/24):それでは細かく感想ですが、その前に、この本って内容もいろいろと面白かったんですが、巻末にアペンディックスがあって、著者本人の地球温暖化あるいは環境問題にまつわることに関する個人的見解が箇条書きで書いてあるんですね。物語も確かに面白かったけど、実はそのアペンディックスが一番私にとっては面白かったです。いやぁ、ホントだなぁと思わせられたり、自分の考えをもう一度考えさせられたり。

内容としては最初にガツンとくるのが84ページから86ページにわたるグラフの紹介ですよね。データというのは、データそのものよりも、Interpretation、つまりそれをどう読むかが非常に大事なわけです。「地球温暖化が起こっている、さあどうするか」というところから入るのではなくて、「え、地球温暖化?データ見せてよ」と、そこから入りたいところですが、自分に専門知識がないのが恥ずかしくてそこまでは言えませんよね。ですから少なくとも私にできるのは、サクサクといろいろなデータを検索して見解が述べてあるものをいろいろと探して、多面から物事を見る努力をすると言ったところでしょうか。89ページのディスカッションも興味深いです。128ページ:

Finally George Morton began to speak. “I’d like to thank Nicholas Drake and the National Environmental Resource Fund for this award, but I don’t feel I deserve it. Not with all the work that remains to be done. Do you know, my friends, that we know more about the moon than we do about the Earth’s oceans? That’s a real environmental problem. We don’t know enough about the planet we depend on for our very lives. But as Montaigne said three hundred years ago, ‘Nothing is so firmly believed as that which is least known.'”

ああ、きたきた、という感じでした。何もモンテーニュ持ってくる事もなかったとは思うんですが、このパラグラフのすぐあとに、「え?モンテーニュ?」みたいなくだりもあるので、まあ納得でしたけれども。でもマイケルクライトンはこれを強く言いたいんだろうなぁといった感じだったので。そしてここからが本当の事件の始まりといったかんじだったのでわくわくしました。188ページ:

“Then how do they make computer models of climate?” Evans said. Kenner smiled. “As far as cloud cover is concerned, they guess.” “They guess?” “Well, they don’t call it a guess. They call it an estimate, or parameterization, or an approximation. But if you don’t understand something, you can’t approximate it. You’re really just guessing.”

まあね、といったかんじ。でもコンピュータでモデリングして、こうなりますよーみたいなシュミレーションを見せられたら、まさかそれが”Guess”の結果だとは誰も思わないでしょうけれどね。コンピュータって本物っぽく見せるの上手ですよね。そしてショッキングな190ページのグラフ。まあ、これだけを見て結論を出す訳にはいかないのは当然ではあるんだけれど。191ページ:

“Enormous,” Kenner said. “People have no perspective on Antarctica, because it appears as a fringe at the bottom of most maps. But in fact, Antarctica is a major feature on the Earth’s surface, and a major factor in our climate. It’s a big continent one and a half times the size of either Europe or the United States, and it holds ninety percent of all the ice on the planet.” “Ninety percent?” Sarah said. “You mean there’s only ten percent in the rest of the world?” “Actually, since Greenland has four percent, all the other glaciers in the world – Kilimanjaro, the Alps, the Himalaya, Sweden, Norway, Canada, Siberia – they all account for six percent of the planet’s ice. The overwhelming majority of the frozen water of our planet is in the continent of Antarctica. In many places the ice is five or six miles thick.”

だ、そうでございます。へええええ、地質学研究してる主人がいるにもかかわらず、こんなこと誰も教えてくれなかったよ!とバタバタしてみても単なる自分の努力不足。Aさん、ちゃんと教えてくださいよもう。そして194ページにはリファレンスがズラズラっと並んでいるんですが、Nature、Scienceなどなどと肩を並べてGeologyが!200ページ最終行から:

If that were ture, it wasn’t exactly news. On the contrary, the author suggested that the real news was the end of this long-term melting trend, and the first evidence of ice thickening. The author was hinting that this might be the first sign of the start of the next Ice Age. Jesus! The next Ice Age?

まあこれはAさんもちょっと言っていたことだったのでスンナリ読めましたが、いやー、私なんかは栄養学の勉強していると、エピデミオロジーを除いて、基本的に効果効能に関して読む「期間」というのはだいたいにおいて短くて数分から数時間、長くても1年とか5年とかになります。エピデミオロジーを入れたとしても50年だとか100年だとかが精一杯。

考古学なんかを勉強している人だと、数千年とかいう年数になりますよね。研究の範囲として。まあそれは「人間社会」の関わった年数であって、もしかして化石なんかを相手にしていたりすると数万年、あるいは数百万年とかそういった年数になるのかもしれません。

ですが、Aさんが読んでいる論文なんかをちらっと見ると、とっっっても面白い事があるんです。”Recently, …”なんて感じで始まっている文章が語っているのは実はここ数百万年間のことであったりするんですよ。数百万年前がRecentlyだなんて、いったいどれくらいのことをやっているのか、とびっくりしますが、地球科学、地質学と言ったところになると当然のように地球の誕生からタイムラインを持っているわけなので気の遠くなる年数に目盛りをつけていろいろと分析しているわけですよね。Aさんが、考古学を勉強している友人に、「え?数百万年?数千億年じゃなくて?」なんて冗談言ってて面白かったこともあります。

つまり何がいいたいかというと、星というのは、アツアツに始まり、だんだん冷えて冷え冷えして死んでしまうという一生を遂げるのが普通らしいんですが(もちろん塵が集まってできるし、何かに衝突したりしてその運命を終える星もあります)、最後にアツアツになって一生を終える星はなかなかないわけです。普通にサーモダイナミックスを勉強すれば分かる話です。熱というのはエネルギーそのものですからね。エネルギーがなくなっていくのに熱だけが残る訳がない。ですから、地球の一生を見てみると、地球温暖化?え?という結論になるわけですよ。Aさんが勉強しているような年表の目盛りには現れない部分なわけですよ。

ですから、Aさんがちょっとしたパーティなどで、地質学者であることをカミングアウトすると、「おお、で、地球温暖化は起こってる訳?」と笑いながら聞かれるわけです。アメリカはブッシュが「そんなことは起こっていない」とすべての世界の意見に背を向けて否定していますから、アメリカのちょっとしたアカデミアの人々にとっては、半分自嘲気味な笑い話なわけです。そうすると、ほとんどの人は、「起こってますよ!」な答えを期待しているわけですが、Aさんはそこで決まって口ごもるんですよね。モゴモゴしちゃう。「地球温暖化、という定義によります」と答えたり、「いや、地球は実際は長い目で見ると冷えているんです」といってみたり、横で聞いてて、「きゃーハッキリして!」と大騒ぎしたくなるほどです。

でもこの本読んでよーーーく分かりました。彼が口ごもるわけが。このIce Ageの部分の話もよーくよーく分かりました。246ページ:

“I can give you a simple answer,” Evans said. “The media is a crowded marketplace. People are bombarded by thousands of messages every minute. You have to speak loudly – and yes, maybe exaggerate a little – if you want to get their attention. And try to mobilie the entire world to sign the Kyoto treaty.”

メディア….。研究者の誰もがぶつかる高い高い険しい壁ですね。どう利用するかどう利用されるかも運と時代の流れ次第。

382ページ。ここはQuoteしませんが、人口密度と温度の関係、ローカルとグローバルのこと、「気候」ということの定義についてのディスカッションです。都市部が温度が高いのはなぜかがよく分かったには分かったんですが、ということは、結局のところ地球の人口が増加すると温度が上がるということではないってところが、微妙でした。だって、「人口」ってひとくちにいっても、人だけじゃないでしょう。動物もでしょう。CO2を出すでしょう。でもそれじゃなくて、アーバンヒート。アーバンヒートって何?452ページ:

“Similarly, in environmental thought, it was widely accepted in 1960 that there is something called ‘the balance of nature.’ If you just left nature alone it would come into a self-maintaining state of balance. Lovely idea with a long pedigree. The Greeks believed it three thousand years ago, on the basis of nothing. Just seemed nice. “However, by 1990, no scientist believes in the balance of nature anymore. The ecologists have all given it up as simply wrong. Untrue. A fantasy. They speak now of dynamic disequilibrium, of multiple equilibrium states. But they now understand that nature is never in balance. Never has been, never will be. On the contrary, nature is always out of balance, and that means -“

化学をちゃんと勉強するとこれが目に見えて分かります。もちろん、それぞれの分子、原子、電子、陽子、中性子、などなどすべてのものが「バランスをとりたい、飽和したい」一心で動くわけですがもともと何かが抜け落ちているパズルのようなもので、どこかがバランスをとることに成功するとどこかが抜ける、それのバランスをとろうとするとさらに次のに影響が出る、といったかたちになるわけですよね。栄養学だってそうです。栄養学は実は化学ですからね。そしてそんな化学システムに生物が入ってくると、生物の本物の本能の欲求ナンバーワンである、「生き延びたい」が入ってくる訳なのでさらに複雑化するわけです。どんな微生物であれ、なんであれ、生物は「生き延びたい」のです。453ページ:

“There was a major shift in the fall of 1989. Before that time, the media did not make excessive use of terms such as crisis, catastrophe, cataclysm, plague, or disaster. For example, during the 1980s, the word crisis appeared in news reports about as often as the word budget. In addition, prior to 1989, adjective such as dire, unprecedented, dreaded were not common in television reports or newspaper headlines. But then it all changed.” “In what way?” “These terms started to become more and more common. The word catastrophe was used five times more often in 1995 than it was in 1985. Its use doubled again by the year 2000. And the stories changed, too. There was a heightend emphasis on fear, worry, danger, uncertainty, panic.” “Why should it have changed in 1989?”

ここで「いい質問だ」といわれるわけですが、ここがこの本のタイトル、”State of Fear”の来たところですね。つまりそういうわけなんですね。興味ある方はぜひ読んでください。483ページ:

“So what?” Kenner said. “Caring is irrelevant. Desire to do good is irrelevant. All that counts is knowledge and results. She doesn’t have the knowledge – and, worse, she doesn’t know it. Human beings don’t know how to do the things she believes ought to be done.”

知らない事を知らないのはworseだそうです。私もそう思うし、以前にそう書いたこともあるけれど、でもやっぱり、知らないってことを知ると、結構「知る」の第一歩ですよねぇ。知らないってことは知らないってことを知らないってことですよね。って言葉遊びみたいですけど。486ページ:

And on and on. And on. “So what you have,” kenner said, “is a history of ignorant, incompetent, and disastrously intrusive intervention, followed by attempts to repair the intervention, followed by attempts to repair the damage caused by the repairs, as dramatic as any oil spill or toxic dump. Except in this case there is no evil corporation of fossil fuel economy to blame. This disaster was caused by environmentalists charged with protecting the wilderness, who made one dreadful mistake after another – and, along the way, proved how little they understood the environment they intended to protect.”

ああ、やっぱりでてきたイグノラント。488ページにはシラミ殺しに使われたDDTについて書いてありましたが、そうだったんですか!意外にもDDTって良かったんですね。あれはメディアとスキャンダラスなパニックが起こしたものだったんですね。あとイグノランスと。564ページ:

“It’s difficult if you are a government agency or an ideologue. But if you just want to study the problem and fix it, you can. And this would be entirely private. ….

このあたりは個人の趣味やポリシーやモットーなどいろいろ絡むと思いますが私はこういうふうに自分に決断ルールを作るのは好きです。優先順位の付け方とかね。正答なんてないんだから、自分ルールにのっとって決めるのは大事じゃないかと。そしてこのQuoteの前に途上国の問題がちらっと書いてありますが、有名な「マズローの欲求のモデル」ではありませんが、やっぱり環境問題について考えることができる余裕が出るのはいろいろ満たされてからですよね。身の安全とか食料の確保だとか、そういった基本的な生活があって、毎日の生活に多少余裕ができてから。自分が食べるのがやっとの生活のときに環境保全なんて言われても、といった部分も見逃すわけにはいかないのでしょう。だって地球上で先進国で、生活の心配をそこまでせずに生きてる人なんて、ごく一部。566ページ:

Evans said, “Anything else?” “New labels. If you read some authors who say, ‘We find that anthropogenic greenhouse gases and sulphates have had a detectable influence on sea-level pressure’ it sounds like they went into the world and measured something. Actually, they just ran a simulation. THey talk as if simulations were real-world date. They’re not. That’s a problem that has to be fixed. I favor a stamp: WARNING: COMPUTER SIMULATION – MAY BE ERRONEOUS AND UNVERIFIABLE. Like on cigarettes. Put the same stamp on newspaper articles, and in the corner of newscasts. WARNING: SPECULATION – MAY BE FACT-FREE. Can you see the peppered all over the front pages?”

ぎゃー!アンリアリスティックだけどやってほしい!これやってほしい!これ絶対やってほしい〜〜!とココロで叫びました。いや、環境問題は私の専門ではないけれど、とくに栄養学関連でこれやってほしい。そして上にも書きましたが、最後569ページから573ページの著者の見解は面白すぎです。そのあとのミニエッセイ、”Why Politicized Science is Dangerous”も興味深いです。面白い本でした。かーなーり、オススメです。普通の推理小説(?)としても楽しめるはず。

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