抗菌製品のばかばかしさ

あんまり栄養に関係はありませんが、私の専門である食品安全にはちょっとだけかぶっているので興味深く読んだんですが、1ヶ月前くらいのNY TimesにGerms, Germs Everywhere. Are you Worried? Get Over It.という記事がありました。つまり、「バイ菌はどこにでもいるんです。心配ですか?心配するのはやめましょう」という感じでしょうか。ホントだなーと思いました。
というのも、数週間前に読んだ本、Fast Food Nationという数年前のベストセラードキュメンタリー本の内容がばかばかしかったからです。


アマゾンのサイトにその本のレビューがあったのでそれを使って突っ込ませていただきます。一部引用です。

なかでも驚かされるのは、アメリカの精肉加工現場の衛生観念と、ずさんな労働管理の実態だ。生産されるひき肉の47パーセントがサルモネラ菌を含んでいることが判明した工場

へ???って感じです。なんで驚いてるの?生肉だからアタリマエ。焼いてサルモネラは死ぬんですよ。160Fまで焼かなかったら問題ですけど。

「サルモネラ菌は自然の生物であって、混和物ではない」という会社の主張が連邦裁判所で認められ、工場の閉鎖が1日で解除されるという事実からは、先進国とはほど遠い業界像とアメリカ政府の認識の甘さが浮かび上がる。

連邦裁判所正しいですよ。サルモネラは自然の生物です。焼けばいいんです。なんでそんなことが分からないんだろう。ていうか、多分、あなたのおうちの冷蔵庫にサルモネラがいる可能性だって50%くらいありますよ。もっとあるかも。病原菌がいる可能性、というふうに範囲を広げれば、75%くらいいます。普通に、菌なら100%います。冷蔵庫どころか、あなたの手のひらにも。
みんなが微生物学の実習で一瞬でいいから手のひらとかにいる菌を顕微鏡で見たらいいのに。わたしは見ました。ビッックリしたけど、そのあと普通に慣れました。菌は、「殺す」ものではなく、「減らす」ものなんです。食べるものに菌がいないなんて思っていたら大間違いです。「症状が出るほどの量」がいない、という状態にすればいいだけなんです。みんなが慣れれば、食中毒の問題はもっともっと解決の方向へ向かうと思うんですよね。
だって、本当に本当に大事なのは、「完全に熱すること」だったり、「調理器具の洗浄を徹底すること」だったり何より大事なのは、「手を洗うこと」だったりするからです。
では、NY Timesの記事、まとめておきます。

  • 「空気滅菌スプレー」のテレビコマーシャルを見た。
  • 一般の微生物学の学生として、異常な光景に見えた。
  • コマーシャルに出ている奥さんは、ごく普通の家庭と同じく、100,000,000,000以上ものバイ菌の住む家にいるのだ。
  • お風呂場にいるこの女性の足下から小さじ1杯の水をこっそりとってきて調べれば、82,000,000,000くらいのバイ菌がいるだろう。
  • 菌というのは、単なる世界の一部なのだ。
  • バイ菌のいない家という夢物語は単にばかばかしいだけでなく、大いに意味がないことだ。
  • よっぽど高齢のお年寄りか、乳児のいる家庭でないかぎり、数百の菌は恐れる必要は無い。
  • しかも、病原菌だって、何千も何百万にも増えて初めて人間の免疫システムが対抗できないほどになる程度だ。
  • 食中毒の病原菌が、4、5時間室温で、水分のあるものに入って増えて、そのあとに人がそれを食べて初めて人を病気にさせる。
  • 食中毒が心配なら、冷蔵庫が一番の守りだ。
  • 室温に放置された食べ物を食べる習慣さえなくせば、菌に対する心配はほどんどしなくてよい。
  • とはいえ、ウィルスはちょっと違う。
  • もしかしたら空気殺菌スプレーがウィルス感染を防ぐというのは、論理上可能かもしれない。
  • でも、論理上であって、実生活では、この通りとはいえない。
  • 実際のコロンビア看護大学の実験では抗菌製品をつかったグループと使わなかったグループで、インフルエンザにかかる割合は違いはなかった。
  • 抗菌製品を使う人は、食中毒やカゼ、その他のウィルス感染を防ぐために使うのだと思われるが、実際はその目的にはまったく効果はない。
  • 効果があるとすれば、「ばい菌恐怖症」の人を落ち着かせる効果程度だ。
  • 今年の「抗菌グッズ」は去年にくらべて倍に増えている。
  • ボトル入りウォーターに次ぐ、新しいマーケティンググッズだ。
  • ばい菌(英語でGerm)はそんなマーケティングが生み出した言葉であり、定義はあいまいだ。
  • バクテリア、ウィルス、両方、どちらでもない、なんとでもいえる。
  • なぜならGermというのは単純に、「汚染」というのを暗示しているから。
  • 知らない人に触れると、汚くなる、というような考え方に起因しているのでどちらかというと心理的な「汚染」だと思って良い。
  • どうか、バクテリアを発見したAntoni Van Leeuwenhoekの目を通してバクテリアの世界を見てほしい。
  • 彼は、「私にとっては、私が今まで発見したすべての素晴らしい自然界の生き物の中で、私の目を一番楽しませてくれたのが、この、一滴の水に含まれる数千もの素晴らしい生き物たちである」と言った。

中身ももちろんですが、最後のあたり、良いエッセイでした。抗菌グッズが売れるようじゃ、「先進国」ではあるでしょうけれど、教育が行き届いていない国、といわれても仕方ないですよね。多分中途半端なんですね。教育が。みんな、バクテリアやウィルスの存在は知っていても、だから、それが実生活にどう関わっているか、リアリティを見るところまでは学校で学ばないから、だから不自然に菌を恐れる。だって、高校で学ぶ程度の学問の知識を問われるだけの、「受験」を突破して「良い」大学に入れたら人生決まるような国ですよね。大学での人間教育ってなんだろう、と日本もアメリカも両方で経験してみて、良く考えます。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *