栄養エッセイ第3回:嫌いなものは食べなくてもいいんです

全然好評いただいてませんが(でも悪評もいただいてませんが)、第1回の「栄養ってなあに」と第2回の「自分を知ろう」に引き続き、1997年の私のエッセイ第3弾です。(1997年6月:Masami’s Home: Nutrition「嫌いなものいっぱい」より)
今、私には嫌いな食べ物というものはそんなにありません。まあ、こんなことイバっても仕方ないんですけどね。単なる喰い意地が張っているだけかもしれないし。でも、小さい頃から高校生くらいにかけての私の偏食ぶりといったらものすごいものがありました。とりあえず、海からやってくるものは全部ダメでしたね。まずさまざまな種類の魚がキライでした。白身、赤身、なんでもキライ。貝なんて見ただけで吐き気をもよおすほど。貝については今も実はアレルギーがあって自分からは食べません。海草も見た目がダメでした。実は野菜も好きではありませんでしたね。玉葱とかピーマン、タケノコなどなどクセの強い野菜は苦手でした。


みなさんはどうですか?食べ物なんてたくさんあるし、多分一般的に一人に1つくらいは嫌いなものがあるのではないでしょうか?もちろん、何でも食べる!という人も少なくはないと思います。「好き嫌い」って実は辛いんですよね。小学校のとき、給食が終わって、お昼休みも終わって、掃除時間になってもひとりで納豆をつついている男の子とかいましたもんね。かわいそうでした。あんなに嫌っているモノを、あんなに強制して食べさせないといけないものなんでしょうか?
私はそうは思いません。こんなこと書くと、栄養士としてそんなこと言っていいの?って思われそうですが、私は栄養士だからこそ、そうは思わないんです。だって、「好き嫌いはいけません。何でも残さず食べましょう!」という指導だったら、何も栄養士じゃなくても出来るでしょう?もちろん、好き嫌いをなくすことは悪いことではありませんが、ここであえて、現実的に、「人には好き嫌いがある」というのを前提にした上で、私は解決法を探したいのです。自分の栄養学の知識から、ほんの小さなことでもいいから、一般の人にも通用するような、キレイごとではない栄養学を広めたいのです。
では、「好き嫌い」がどうして一般的に「イケナイこと」とされているのかを簡単に説明します。

好き嫌いがイケナイのは何故?


それは、「嫌い」な食べ物に入っている栄養素(特に、主要な栄養素)が不足してしまうため。

これだけなんです。簡単です。しかも、今更こんなに大げさに書かなくていいほど、みんな知っていることでしたね?では、問題を解決するためには、根本であるその「栄養素」とやらを、違う食べ物から摂ろうとすればいいのでは?というふうに考える方もいるかもしれません。実は、その通りなんです。
でもすべての食品にどんな栄養素が入っているかなんて、そんなことを覚えるのは私たち、栄養専門の人の役割であって、そんなことする必要はありません。でも、自分がキライなものに何が入っているかを覚えておくのはそんなに大変なことではないし、役立つと思いますよ。
ではまず、自分がキライなものは何か考えてみましょう。この時大事なのは、料理法にとらわれないことです。例えば、
「おなべに入っているしいたけは食べれるけど、バーベキューの時の焼いたしいたけは勘弁してほしいな」といった場合のしいたけは、あなたの嫌いなものではありません。だったら焼かずに煮ればいいんだな、と分かるからです。今挙げていきたいのは、その食べ物ががどんな調理法で料理されていても、その味がするだけで、あるいはその匂いがするだけで「キライ」と思ってしまうものが、あなたの嫌いなものです。なにか思いつきましたか?参考までに、よく嫌われる食べ物をリストしてみます。
ピーマン
にんじん
さかな
貝類
お肉
きのこ
たまねぎ
しいたけ
うめぼし
牛乳
乳製品(ヨーグルトやチーズ)
大豆・大豆製品
メロン
ほうれんそう
たまご
海草
麦ご飯
やまいも
レーズン
納豆
もやし
なまこ
きゅうり
なにか当てはまるものが見つかりましたか?では次のステップです。あなたのキライなその食べ物にはいったいどんな素晴しい栄養素とやらが入っているのが知りましょう。何も、全てを知る必要はありません。特になにか多く入っている栄養素を1コか2コくらい知れば十分です。まずは自分でやってみましょう。食べ物というものはおおきく分けて、7種類くらいのグループに分けることができます。小学校の栄養士さんが説明していた、「赤と黄色と緑のグループ」かな、と思った方、ちょっと違いますので注意して!私のこのグループ分けの方が、絶対使いやすいから。

1
主食系

ごはん
パン
いも類
めん類

糖質、いわゆる炭水化物といわれるものです。「エネルギーのモトになる」という説明をされることが多いものですね。英語だとカーボハイドレイト。CHOと書かれたりCarbと書かれたりします。
2
くだもの

くだものはぜーんぶ

C, Dなどいろいろな水溶性ビタミンやミネラルが入っています。果糖(フルクトース)といわれるお砂糖も入っています。
3
主菜系


さかな
たまご
大豆製品(豆腐)

いわゆる、たんぱく質ですね。タンパク質はアミノ酸というもので作られていますのでアミノ酸のモトです。大事なビタミンB群に富んでいるものが多いです。赤身のものは鉄分も多し。たまごは「完璧な栄養食品」と呼ばれるほどいろいろなビタミン、ミネラル、炭水化物、タンパク質、脂質に富んでいます。
4
牛乳系

牛乳
ヨーグルト
チーズ

いわずとしれた、カルシウムの宝庫。タンパク質、脂質などもあります。
5
あぶら系

植物油
バター
マーガリン
ナッツ系

いわゆる脂肪ですが、脂溶性のビタミンA, D, K, Eなどは脂肪と一緒だと吸収が高くなるので大事な栄養素のひとつです。また解糖系に入るとエネルギーになります。
6
野菜系

野菜
海草
きのこ

さまざまなビタミン、さまざまなミネラル、食物せんいなどなどが入っています。
7
味付け系

しお
さとう
みそ
みりん
ケチャップ
マヨネーズ

塩分、カリウム、糖質、脂質などが入っています。

栄養学に興味のある人であればもう気付いたかもしれません。これは、糖尿病の患者さんのタメの食品の分類表に、ちょっと手を加えたものです。手を加えてしまった以上もはや厳密には糖尿病の患者さんにはフィットしませんが、こうして「好き嫌い」について考えるには最適な分類だと私は思うんですね。さあ、自分の嫌いなものがどのグループに入るか分かりましたか?
ここで、最後の味付けの食品がキライ、という人は心配する必要はあまりありません。これは、食べなくても、ほかのグループのものを食べているうちになんとかなるものばかりです。モンダイは、野菜グループがダメだったヒトですね。その人はちょっと待っていてください。まず、野菜以外のモノがダメだった人たちの解決法を説明します。
野菜以外のものがキライだった人は、上のグループ分けで同じグループの食べ物の中から、自分が食べることができるものを見つけだして、かわりにそれを食べることにすると簡単です。たとえば、お肉がダメなヒトは、魚や豆腐などを上手にバランスよくとればいいし、牛乳がダメでもヨーグルトが大丈夫なら、牛乳のかわりだと思って日頃から気をつけてヨーグルトを今までよりもちょっと頻繁に食べるようにすればいいんです。牛乳はダメだけどラテなら飲める、という人はラテでもいいのです。カフェインがカルシウムの吸収を阻害する、という話もありますが、全く飲まないよりはラテでも飲んだ方がカルシウムはとれるんですよ。そんな感じで、「かわりの食品」を見つけることはそんなに大変ではないと思います。
さて、問題なのは、同じグループの全てがダメだと思う人です。そんなあなたは、この好き嫌いの問題は結構深刻だと思うようにしましょう。だって、私がこの世の中の信じられない数の食べ物をたったの7つにわけたのに、そのひとつのグループの食べ物が殆どダメなんですよ?これは何か大事な栄養素が不足してしまうのは目に見えていますね。そして、それを解決するのはシロウトではちょっと大変そう。
そんな人はプロに助けを求めてください。そんなにシリアスに助けを、という意味ではありませんが、ちょっとカゼで病院に行ったりしたときに、「好き嫌いが激しいので栄養士さんを紹介してください」といえば普通に紹介してくれるはずです。保健所にもいつも栄養士さんはいます。そしてその栄養士さんに、「XXXがキライなのですが、代わりに何を食べればいいですか?」と聞いてみましょう。普通の管理栄養士さんであればあっさり代わりの食品を即答してくれると思います。
また、野菜については難しいところです。同じような葉っぱの野菜でも、ほうれん草とレタスでは入っているものが違いすぎるのです。でもウェブでも今はサーチすれば栄養素データベースはどこにでもあるのでそういうのを利用して、何で代替できるかを自分で把握しておくことは大事です。でも、これも簡単に解決するには栄養士さんに聞くのが一番でしょう。
さて、最後は「栄養士の利用法」になってしまってちょっとズルしてしまいましたが、こうして考えてみると、「嫌いなものに何が入っているか調べてその代わりの物を探して食べる」という解決法よりも、「嫌いな物をおいしく料理してどうにか食べれるようにしてしまう」ということのほうが、実は一番簡単な克服法かも、と思ってしまった人もいるかもしれません。ムリヤリ嫌いなものを食べることは人生において時間の無駄遣いだと思うので、オススメしませんが、健康を損なうほど好き嫌いしてしまう人は、とにかく、「気にする」ことが大事です。「これキライ、あれキライ」とワガママっぽく言っていないで、「これキライだから別にあれを食べるようにしています」と言えたほうがカッコいいと思うんですがどうでしょうか。(以上)
補足(10/16/2004):ホントに最後は「栄養士の利用法」になってて笑いました。多分私が言いたかったのは、「意識しておく」ことの大事さなんだと思います。食生活って日々のことだし、うっかりすると鉄分とかカルシウムとかって少し欠乏したまま長いこと気づかないでいるものだと思うんですが、「自分は鉄分(やほかの栄養素)が欠乏気味だ」と意識しておくことが、とにかく大事だと、そういうことを書きたかったんだと思います。

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