免疫パワーで、がんと闘う

「免疫パワーでがんと闘う」というタイトルは、とりあえず手もとにあったAERA(2003年12月号、いつも日本の雑誌を下さるKさんありがとうございます)から盗んでみました。というのも、この記事、タイトルはキャッチーで「またこれか!」とあきれながら読ませるのに、内容は、「そうそう!」と思うことばかりで、読んだあとに、タイトルうまいなーと思ったからです。サブタイトルっぽく、「免疫パワーでがんと闘う…そんなシンプルだったら今頃、癌も風邪と同じだ」と書き足したい気分ですね。
先日、健康食品について書いたときにお友達のEちゃんからコメントをいただいて、ああ、今、私は日本にいないからあんまり気付かないけど、「免疫」って売れセンのキーワードなんだなと改めて思いました。Eちゃんありがとうね。それで今日は、ちょっと免疫について考察してみます。


まず、前置きとして言っておきたいのは、免疫学というのはとてつもなく複雑で難しいもので、私ももちろん講義を何度も受けて理解しようと頑張ったんですが、そんなに単純に理解できる学問ではありませんでした。カティングエッジ(最先端、かな)という英語がありますが、まさにそういう学問なのです。だから、ここでは出しゃばらずに私は私が学んだ限りの範囲で、「免疫」と「栄養」に関してのみ、書いてみます。
とはいえ、やっぱり最初は基礎から入らないといけないと思うので簡単に免疫とは何かというのを書いてみますね。まず、英語が普通に分かる方で、ものすごくこの免疫学に興味がある方は、私が去年受講した講義のハンドアウトを2コ、ダウンロードできるようにしてみましたのでどうぞご利用ください。

ひとつめの方はしっかり読むハンドアウトタイプで多分これの他に参考書が必要でしょう。ふたつめのほうはアニメーションで理解するタイプなのですが、英語さえ分かれば非常に分かりやすいです。そのクラスはサテライト授業で、オハイオ州立大学、コロラド州立大学、そして我がワシントン州立大学が同時にやった授業だったのでオハイオのリディアという先生が教えてくれた内容になっています。
ダウンロードした方もしなかった方も、まず、免疫というのには2つの種類があるということはご存じでしょう。ひとつは、もともと体に備わっている、外敵から身を守るシステム。例えば皮膚。ウィルスが体にはいってこようとしても、皮膚でブロックされているということは意外に見落とされてます。そしてさらなる例は胃液。かなり強い酸が菌を殺していることも、実は免疫機構の一部なのです。こういう基本的な免疫システムをInnate ImmunityあるいはNatural Immunityといいます。基礎免疫、あるいは自然免疫です。免疫学の世界では「原始的免疫システム」としてずっと認識されていました。
そしてもうひとつの免疫のシステムはAdaptive ImmunityあるいはAquired Immunity、日本語だと獲得免疫といわれます。これははしかやおたふく風邪などの例で分かるように、一度かかった病気の病原菌などの外敵を覚えておいて、その後その記憶で身を守るという免疫システムです。これは強烈なパワーをもった病原菌にスピードを持って対処して被害を最小限に押さえると言う意味でかなり重要な免疫システムです。
さて、ここでミニクイズです。「あなたは、どちらかの免疫システム(自然免疫か獲得免疫)を失わなければならないとしたら、どちらをあきらめますか?」よく考えてみて下さいね。実はこの質問は私がこの講義を受けていたときの課題でこれについてさまざまなリサーチ結果と共に10枚のペーパーを書かされました。とても良い学習経験でした。
もちろんどちらをあきらめてもDeadlyです。どちらがなくても、かなり危険で、人生は長くないでしょう。でも、強いていえば、実は「獲得免疫をあきらめ、自然免疫を持っているべきだ」というのが正解です。それほど、ひとは自然免疫に大きくお世話になっているのです。自然免疫を持っているが、獲得免疫が低下している人の例には、「小さな子供、妊婦、エイズ患者、臓器移植経験者、がん患者、お年寄り」などがいます。でも皆さん、確かに獲得免疫は低下しているけれど、生きているでしょう?獲得免疫はあるけど自然免疫がない人、たとえば胃酸が出ない人(いるんですよ!)、生まれつき皮膚ができない人(いるんですよ、もちろん死産したり生まれて数分で亡くなったりするそうです)、その他リンパ異常がある人、などなどは、症状が軽い人でも長くて5年くらいしか生きることができないそうです。
そこで、今はやりの、「免疫を高める」という言葉について考察してみますが、一体全体「何の」免疫を高めようとしているのか。獲得免疫を高めるのなら、基本的なアイディアとしては、「いろんな菌(外敵)に触れる(Aquireさせる)こと」が獲得免疫を高める最初の方法でしょう。私のインド人の友達はインドで水道水を飲んでもお腹を壊さないそうです。つまりそういうことですね。私が飲んだら死ぬくらいの状況になるでしょう。じゃあ毎日ちょっとずつ菌を食べればいいのか?ね、そんなシンプルじゃないんです。もちろん、ビフィズス菌だとか腸内細菌を増やすとかそういうことは、この方法の第一歩ではあるんですけどね。他のアイディアとしては、これはエイズ患者やがん患者などに試されている免疫療法ですが、比較的おとなしい細菌などで免疫反応を刺激して、それを利用してさらに大きな外敵にも反応するようにする、といったいわば外部からの「免疫を高める」療法というのがあります。もはや私の範囲ではありませんが。
では自然免疫を高めるにはどうしたらいいか。ね?これも全然シンプルじゃないんです。でも「皮膚や骨を強くする(タンパク質、ビタミンやカルシウムなどのバランスをとるがメインの方法でしょう)」「アルコールを飲まない(当たり前のように胃液のPHに影響しますからね)」などが「自然免疫を高めているか」といえば、そうなんですよ。
つーまーりー、何がいいたいかというと、「いきなり今日から、『免疫を高めよう』たって、そんなの高望みすぎる!!!」と私は叫びたい。いや、別に叫ばなくてもいいんですけどね。
ちょっと横道にソレますが、私、いっっっっっっっつも思うんですが、ちょっとだけ学問的な響きで、ちょっとだけ難しそうだけど、誰もが知っている響きの科学的な言葉って、「売れ」ますね。

  • マイナスイオン
  • 免疫
  • アミノ酸
  • オーガニック

などなど、あー中学のときにどこかで…。と思いそうな魅力的な言葉たち。でも、みんな定義を知ってるのかしら、といつも不思議に思います。もしかしたら知ってるのかもしれませんが。だいたいマイナスイオンってなによ、マイナスイオンって。誰か私に「マイナスイオン」の定義をください。負の電荷を持った分子とか原子のこと?じゃあ「マイナスイオンエアコン」とかって、よってたかって放電してるってこと?そんなのが山ほど身の回りにあったら怖いって。まじで。オゾンとか増えないんですか?
まあそんなことどうでもいいんですけどね。とにかく、うちの姉が外来で患者さんに「免疫を高めたいんですが、どんな食事をとったらいいですか」と聞かれることがあるらしいんですが、ひえーーと思いますね。姉は優しく、「一日3食、バランス良く、ストレスのない生活を」と言うらしいですが、患者さんはその答えにかなり不満げらしいです。だいたい高望みなんですよ。自分の食生活を振り返ってみてくださいよ。一日3食、バランス良く食事できてる人ってめったに見たことないですよ。それもやってないのに、いきなり「免疫を高めたい」だなんて。だいたい、私だって気をつけていても、一日30品目なんて達成できるのは1か月に数日なのに。でも、逆に言えば、それを頑張って続けていると「免疫は高まる」んでしょうね。すっっごく難しいでしょうけれど。少なくとも仕事と両立できそうにない。
でもこれじゃあまりにも突き放した答えなので、私だったら、「ひとつひとつやろうよ」という提案をすると思います。まず睡眠不足で風邪をひきやすい人(普通のことに感じるかもしれませんが、明らかに、「免疫の低下」が「風邪のひきやすさ」をもたらしているんですよ)は睡眠不足をなんとかしましょう、というところからはじめます。仕事の関係で睡眠が取れない、というのならチョイスは2コですね。風邪を引きやすくてもいいから仕事をちゃんとやりたい人は、そのポイントでは免疫を高める、というアプローチはあきらめるしかないです。仕事を少しバランスをとって、睡眠をちゃんととるようにすれば、その点での「免疫をたかめる」というゴールには少し近付くでしょう。
そして何より大事なのが、「楽しい気分」。です。なんが小学校の授業みたいでスミマセンね。でも、つい先日研究結果を見たんですが、「おいしい食事」が「楽しい」と感じる人はアメリカで75%以上だそうです。「おいしい外食」が「楽しい」と感じる人は60%、「おいしい家での食事」が「楽しい」と感じる人は80%以上だそうです。面白いですよね。データのサンプル数がN=208だったのでもしかしたら偏った数字である可能性もありますが、でも私は納得します。
そして前出のAERAの記事は最後を、

「精神科の専門医が患者を励ましてサポートすると、再発したがん患者の平均生存期間が長くなったという報告もある。患者さんの心のあり方が治療結果に影響する。ムリせず、好きなことをして楽しく暮らしてください」と東京共済病院の馬場紀行乳腺外科部長は話す。
心も免疫もきわめて複雑なシステム。互いに同影響するのか仕組みとなるとまだわからないことだらけ。ただ、ともかくも楽しい気分になる方法を自分なりに見つけることが、免疫にもいい影響を与えることは確実なようだ。

と結んでいます。「楽しい気分」と「免疫」というのはかなり密接な関係にあるみたいですね。だから、必死になって「健康のために!!!」と家計を苦しくして、おいしくない健康食品を食べるというのは私にとっては疑問です。もちろん、その「私、努力してるわ感」がいい影響を持つこともあるとは思うんですが。でも、食事をおいしく、楽しく食べることが、免疫を高めるんだとしたら、そんなに嬉しいことはないじゃないですか!広告やトレンド、ブームにだまされるんじゃなくて、「自分」はどうしたいか、何が嬉しいか、なにが楽しいか、何が重要か、というのを考えながら生きていると、どうやら健康に近付きそうですよね。それはきっと何よりも(たとえば、毎日とある「健康にいい」錠剤や食品を摂ることよりも)ずっとずっと難しいことなんでしょうけれどね。

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