たまに、「どんな研究をしているのですか?」と質問のメールを受け取ることがあります。私、いろいろな質問メールの中で、実はそれが一番好きです。本当にありがとうございます。好きでやっていることに興味を持っていただけるのって本当に嬉しいです。ヘンな話、嬉しくてぞくぞくします。
それで、答えは、いろいろやってるんですが、まず、一番のテーマは、「食品安全」です。食品安全の中でも、農家が頑張る部分、政府が頑張る部分、食品会社が頑張る部分、消費者が頑張る部分、といろいろあると思うのですが、私は、「消費者が頑張る部分」というのに力を入れたいと思っています。結局最後の砦ですからね。自分と大切な人の命は自分で守りましょう、というテーマです。
食材の選び方、手の洗い方、調理の仕方、などなど、自分で守れる食の安全というのはさまざまな分野にわたっています。しかも、軽視されがちですが、実は世の中のほとんどの食中毒が家庭で生まれているという研究結果が出ているほどなので、本当に大事なことだと思うんです。
ただ、ニーズは少ないですね。たとえば、有名なサルモネラ菌というのがいます。あれは、どこにでもいます。スーパーでお惣菜売り場でちょっとポテトサラダ、とか唐揚げ、とか買うと、あれにはだいたい、入っているといっても過言ではないのです。でも、どうしてあんまり発症しないか。それは、まず「発症するほど、サルモネラ菌の数が少ない」とか「人間の免疫システムなどが良く、たいしたことなくすんでしまう」などいろいろな原因がありますが、実は、「食中毒だと認識されない」というのが一番大きいとされているんです。
私の友達で、「今日ちょっとクダし気味でお腹いたいんだよね」と言っていたひとがいて、「あれれ」と同情してたら、「昨日ハラ出して寝てたからなー」と言ってました。そうなんです。所詮その程度なのです。でも、これは私の個人的な意見ですが、吐き気がする、下痢をする、などの症状は、ほとんど、食中毒を疑っていいと思っています。もちろん、例外もあるし、原因を突き止める術はほとんどないので、断言こそできませんが。だから、その程度ですむからあまり、「家庭で食の安全を!」と躍起になる必要がないわけですね。
ですが、家庭にお年寄りや小さな子供がいる場合はどうでしょう?これは研究結果が出ていますが、日本に生協ってありますね。生協の積極的な参加者のうちの70%に、中学生以下のお子さんがいるそうです。免疫機構が弱い、あるいは未発達、あるいは異常がある人々には、お年寄り、小さな子供、またガン患者、エイズ患者、妊婦さん、などなどさまざまなカテゴリーがあります。そういう人々は、食中毒にかかりやすいだけではなく、その症状が重くなる可能性がかなり高いのですね。みなさん無意識に、子供を守りたいと思って生協のような食の安全を重視しているところに参加したくなるわけです。自分が一人暮らししていたときはそうでもなかったのに。
子供が食中毒に弱い、という例で分かりやすいのは1996年におこった、O157の食中毒事件。小さなお子さんが数名なくなられましたね。まだ免疫が未発達の小さな子供は、少しの数の菌ですぐに発症し、重体になり、脱水を起こし、うっかりしたお医者さんが抗生物質を与え(子供にはああいう場合は抗生物質は与えないほうが良いとされているんです)、そして悲しい結果になってしまった。同じ量を健康な大人が食べてしまっても死ぬってほどのことではなかったかもしれないのです。
あれは結局原因食品があやふやのままでしたが、たとえ、カイワレであったにしても、肉であったにしても、何であったにしても、あれは、「調理する側」で防げた問題だったんです。だから、「弱い」人が家族にいる場合、家庭の食品安全というのは大きなテーマになりうるのです。原因が何であれ、調理さえちゃんとやっていれば、あんな事件にはならなかった。私が注目したいのはそのあたり。
ただ、O157のように、たったの10コの細胞でも感染させうるような強い菌には、「かかりやすい人」、「かかりづらい人」、というのは分からない部分が多いのです。誰でも感染しうる。みなさんもご存知のように、今のところ、一番O157の保菌率が高いのは牛ですね。これは別に新しいことでもなんでもなく、割と前からそうだったんですが、事件になってしまうと、まるで新しい出来事のように、「牛は危険!」というふうになってしまうので悲しいのですが、まあ、ハンバーグのようなミンチになった肉はわりとO157のいる確率は高いわけです。というのも、O157は細胞の中には入っていけないので、肉の表面にいるわけですね。だからステーキなどはレアに焼いても、外側さえ焼けていればだいたい大丈夫。ミンチは無限に「表面」というのがあるので内側までちゃんと焼けていないと、危ない。
ハンバーグなどをつくっていて「中をわってみて、色がピンクじゃなかったら大丈夫」「突き刺してみて、透明の肉汁が出てくれば大丈夫」という教育が長いことされていたので誤解が多いのですが、最近の研究(1998)で、それがウソだということが分かりました。ピンクでも大丈夫なとき、茶色になっていても危険なとき、とあるのです。じゃあ、消費者はどうしたらいいの?
答えが温度計です。化学の実験じゃあるまいし、台所で温度計を毎日使うなんて、冗談でしょう?と思う人も多いかもしれません。私だって、人生26年間、温度計を台所で使うなんて考えたこともありませんでした。18のときから栄養学に興味があったにもかかわらず、です。
でもね、一度温度計を買ってみて、キッチンの引き出しに入れておくと、意外に使うし、意外にラクなんですよ。だって、ハンバーグを作るとき、ハンバーグをお箸で割らなくてもいいんです。ハンバーグの横側からスーっと温度計をいれて、10秒くらい待つと、ぱーっと温度があがっていき、「あ、160F(70.1C)だ」となって温度計をぬいて、もうできあがりだからです。焼き不足が心配で、焼きすぎることもなく、ちょうどいいジューシーな感じのハンバーグができあがり、かつ、安全だなんて願ったりかなったりじゃないですか。
冷蔵庫のドアに、「何度になるまで焼けばいいか」という情報はマグネットで貼ってあるし、別に温度を暗記することもない。
まずは小さなお子さんやお年寄りのいる家庭から、温度計使ってみませんか?というのが私の提案なのです。私が1年もかけて、プロジェクトメイトのみなさんと作った、パンフレット、レシピカード、などがあるのでもしよかったらどうぞ。また、ビデオや、ティーチングキット(学校で温度計を使う教育をするためのキット)は誰でも購入できますが、私が力をいれて作ったのはパンフレット。無料なので是非ダウンロードしてみてくださいね。
なぜ温度計を使うのか、どうやって使うのか、どんな温度計がいいのか、などなど重要な情報がもりだくさんです。温度情報の部分は冷蔵庫などに貼って、台所ですぐ見れるようにしておくと便利です。”PDF”と書いてあるところをクリックすると無料でダウンロードできます。[GO] [サーバーがつながらない場合の直接ダウンロードはここをクリック]
簡単なレシピが、温度情報と一緒に書いてあります。オールアメリカンハンバーガー、カレーターキーバーガー、アプリコットジンジャーチキン、ソーセージワッフルハニーアップルシロップ、スパイシーポークチョップなど、私も全部試しましたがおいしいレシピばかりです。食品安全の簡単なティップスなども書いてあります。それぞれの料理名のところのリンクをクリックするとダウンロードできます。アプリコットジンジャーチキンはすごくおいしかったですよ。[GO] [サーバーがつながらない場合は直接、白黒5枚セットの他に、カラーで、All American Burger、Apricot Ginger Chicken、Turkey Curry Burgers、Sausage Waffle with Honey Apple Syrup、Spice Rubbed Pork Chopsが別々にダウンロードできます]
■ ビデオ
おもしろおかしく、タメになるビデオ制作しました。子供が見ても、大人が見ても楽しめ、温度計の使い方も簡単にわかるようになっています。特に、どの温度計を選ぶかの部分はかなり情報がいっぱいです。お値段は$25。実は、私はまだたくさんこのビデオの余りを持っているので、「どうしても見てみたいけど$25は高い」と思ってしまう方がいらしたら、個人的にメールください。数がある限り、私から無料で送ります。[GO]
■ 教育キット
これはいわゆる「お買い得セット」かもしれません。今上にかいた全てのパンフレット、レシピカード、ビデオが入っている上に、PDFファイルや教育スライドが入ったCD、ポスター4枚、そしてなんと、私たちがすごくオススメする、デジタルの温度計($15相当)が入っていてお値段$35です。教育の現場で温度計教育を!なんて熱い先生がいらしたら(いるのかなぁ?)どうぞ。アメリカでは結構売れているらしいです。[GO]
また、このプロジェクトの概要が、サテライトテレビ放送された(10/31)ことがあるのですが、ハロウィーンのテーマでかわいらしくも真面目にビデオストリーミングされています。無料なので、1時間ほど時間があり(!)、興味をもってくださる方はどうぞ。私も3カ所くらい映りますが、合計10秒も映ってない上に、探すのは非常に困難です。Real Playerで見るか、Windows Media Playerで見るか選べます。
[View using Windows Media Player]
Extension Food Safety Update
Program Description & Guests: Val Hillers
This program will feature a look at the recently completed “Thermy” project on how to use a food thermometer, which was funded by a grant from USDA, and features a booklet, video and recipe cards.
Research by WSU food scientists has given new support to the belief that cooking with a food thermometer improves food safety. This Extension Engaged will introduce the Thermometer Project, a USDA-funded educational effort to encourage food thermometer use. Project leaders Val Hillers of WSU and Sandra McCurdy, University of Idaho, will talk about the research behind the project, and will introduce “Now You’re Cooking… Using A Food Thermometer,” a curriculum kit that is proving highly popular.
読んで興味を持ちました。