The Pianist

20030413_thepianist.jpgThe Pianist (Wladyslaw Szpilman)
以前に、映画を我慢して本を読もう、と思ったのはこの本のことだったんです。オンラインで買ったのですが、届いた火曜日から、ダラダラと読んでいたにもかかわらず、今日ちょうど中間くらいのところからもう先を読まずにはいられずに、現在夜中の3時半です。読み終わりました。
読み終わってから思ったんですけど、私は映画を見てませんのでなんともいえませんが、多分、映画を見ていたとしても、この本は読む価値がありすぎるほどだと思います。多分ポーリッシュから英語への翻訳なので、多少は普通の本を読むよりはちょっと難しかった気もしますが、私はきっと映画も見るでしょう。なんとなく、映像で見るのも本で読むのも別物な気がします。
本の感想ですが、ここからは映画を見るつもりがあったり本を読むつもりのある方は読まないでくださいね。
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まず最初のあたり、35ページなんですが、

He glanced at me, still breathing heavily, and then looked up at the sky, a calm sapphire blue where the little white clouds left by phrapnel still hovered, and an expression of rapture came into his eyes, as if he saw Yahweh in all his majesty there in the heavens.

ここは説明するのもナンなんですが、まぁ自分の記憶のために、えっと、絶望ってどうして人の心をストライクするかというと、シンプルでキレイだからだと思うんです。青い空が悲しいのはそういうことだと思います。アームストロングだって、井上陽水さんだって、こんなちっぽけなあたしだって、青い空には何かを感じてしまうのはなんでなんでしょう。サファイアブルーの空っていうのがすごく分かる、と思って泣くところでもないかもしれないけど泣いてしまいました。
次は57ページ。

When she came back she was carrying a newspaper: a special edition. Two words were printed on the front page in huge letters, obviously the largest the printers had available: PARIS FALLS! I laid my head on the piano and – for the first time in this war – I burst into tears.

ここはヘンな話ですが、私はこの人のチカラというか、「希望」のチカラというのが見える気がするところなんです。あの強国フランスが!と思って泣き崩れるというのは裏返しに言うとそういうことかな、と。
だんだん状況が救いようのないことになってきたとき、それを説明するために90ページでは

I can think of only one comparison that would give an idea of our life in those terrible days and hours: it was like an anthill under threat. When some thoughtless idiot’s brutal foot begins to destroy the insects’ home with its hobnailed heel, the aunts will scurry hither and thither, searching more and more busily for some way out, a way to save themselves, but whether because they are paralysed by the suddenness of the attack, or in concern for the fate of their offspring and whatever else they can save, they turn back as if under some baleful influence instead of going straight ahead and out of range, always returning to the same pathways and the same places, unable to break out of the deadly circle – and so they perish, Just like us.

と説明しています。すごく分かりやすく、絶望を感じるとともに、そこに、生き延びる道を見てしまうのって私だけかなぁ。
次は102ページ。ここはどうやらページに折り印をつけたのは私だけではない部分のようで、最後にエピローグのような形で解説を書いていたWolf Biermann氏もExcerptを紹介してましたが私も。

Father smiled again, as if he were even more sure of himself after this reply. ‘Look,’ he said, indicating the crowd at the Umschlagplatz. ‘We’re not heroes! We’re perfectly ordinary people, which is why we prefer to risk hoping for that ten per cent chance of living.’

まさにその通り。Wladyslaw Szpilman氏はそうやってきた証拠みたいなものですね。
そしてピアノに対する愛。この本の中でちょっと、あまりにも現実離れしすぎてるんじゃないの?とこのノンフィクションぶりを疑いたくなるほどのピアノへの愛があります。ピアノへの愛というよりはピアニストとしての自分への愛、といったちょっとナルシストっぽい部分かもしれませんが。冬の寒さを隠れ家ですごすときに、「手袋もないなら戦争が終わったときにピアノをひけなくなるかもしれない」とか「今破傷風になるわけにはいかないから傷を負ってもささったものを抜かずにいよう」とか、ちょっとびっくりするほどにリアリティーがない部分が多いのです。で、136ページでは隠れているフラットの隣人(ユダヤ人ではなく、彼がそこに隠れていることをしらあい)のカップルの夜の過ごし方を聞いていて(女性のほうがたまに音のわるいピアノをヘタクソに弾き、それを男性の方はうるさく思い嫌っている)、こう思うわけです。

As I listened, I ofte thought sadly how much I would give, and how happy I would be, if I could only get my hands on the tinny, out-of-tune old piano that caused such trouble and strife next door.

このhow much I would giveという5コの単語に、ぐぐぐぐぐっとこれ以上はないほどの真剣さを感じるので、上に書いたようなウソっぽいとすら思える愛も納得がいくのです。
そして本はおわり、この物語の最大のポイントともいえる、Captain Wilm Hosenfeldの日記を経て、Wolf Biermannの解説へと行くわけですが、その中で彼はPaul Celanの詩を引用しています。ページ212。

He who counted our hours counts on./What is he counting, tell me?/He counts and counts…

つまりそういうことなんです。真実は、いつでも正しくないし、ある理由によって世の中のほとんどのひとに忌み嫌われることだってあるんですね。そしてこの詩はその理由の部分。
ポーランド版のこの本は出版後すぐに出版禁止となった、という話は聞いていましたが、ポーランド人の著者の本が、どうして?とちょっと不思議に思ったものの、最後でそういうことか!と思えました。しかも、今でも、Captain WIlm Hosenfeldはドイツ人ではなく当時のアリー国であるオーストリア人ということにしてあるそうです。その曲げられた真実のほうが人の心を癒すのかもしれません(221ページ)。

It may interest readers to know that for the Polish edition Wladyslaw Szpilman found himself obliged to pretend that his rescuer Wilm Hosenfeld was an Austrian. An Austrian angel was obviously ‘not quite so bad’ at the time, absurd as it seems today.

以上、自分の記録のためでした。

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