切ない台中公園

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Full album is available at Taiwan Sept 2018 | Flickr

2018年の9月に夫のAさんと台湾旅行に行ってきて、色々と楽しいことばかりだったんですが、その中でも絶対に特筆せざるを得ないのがこの台中市の台中公園です。台中市自体が大都市ではなく、のんびりとしたところにあるのと、この公園は確かに素敵ではありますが、別に大きな公園ということもなく、何か特別なものがあるというわけではないということとで、私たち夫婦の台湾旅行のピークがこの台中公園だというとちょっと驚かれるかも知れません。ですが私たちは台湾に行く前から、ここが私たちの旅行のピークになることをわかっていました。

というのも、下の絵をご覧ください。近くから、しかも額縁の上から撮っているため光ってしまっていますが、これは私の亡祖父の描いた絵です。私が物心ついてからずっと祖父はこの下絵に線を入れたり薄く水彩の絵の具を入れたりとゆっくりと描いていたのでこの絵は祖父を訪ねる度いつも目に入っていました。そして祖父が亡くなってからは、この絵はいつの間にか私の中で祖父と同じような存在になっていました。

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祖父は生まれは熊本の八代ですが、いわゆる大日本帝国時代の日本統治時代に台湾へ移住し、同じような状況で佐賀から移住してきた祖母の家族に出会い、結婚も台湾の台中市でしています。台湾は当時内地扱いだったのでパスポートもいらず、日本人として日本の台湾に引っ越した、という形ですね。こうやって戦争が終わってからこのように書くとまるで冷徹な侵略者のようにも聞こえかねませんが、私の祖父も祖母も普通の田舎の人々です。激しい意見を持っているわけでもなく、何かを支配するような性格でもなく、戦後も台湾にいるたくさんのお友達と長く交流をしていました。祖母は両親は佐賀生まれの日本人ですが、本人は生まれも台中市だったことから、戦後、島を離れざるを得ない状況になった時に現在の日本に帰るのがとても嫌だったといつも話してくれます。

現在でも、台湾の人々の個人レベルと国レベルの日本の人々との親密ぶりを考えると、占領したり、占領されたり、殺したり殺されたり、人のものを奪ったり、奪われたり、と、全く納得のいくものが一つもない戦争というものについてやはり深く考えざるを得ませんね。地球なんて、太古の昔には土地なんて誰のものでもなかったのに、そして国なんて最初から何もなかったのに、誰が国というものを作って、誰が土地の所有権を主張して、誰が「施政権」を持てるのかなんて、多かれ少なかれ、先に言ったもん勝ち、力が強い方が勝ち、的なところはありますよね。とにかく、はっきりわかっているのは台湾は決して明治以前は日本ではなかったこと、そして何より敗戦国である日本には、つまるところの「発言する権利なし」というのが(サンフランシスコ条約だったか日華平和条約だったか)全てですね。

歴史のことはとても大事なことで、どうでも良いことでは絶対にないので、省略すべきじゃないと思って上のことも書きましたが、結局私の個人レベルでは、祖父の絵の中の湖面に浮かぶこの建物は何かの象徴になっていて、どんな規模か、どんな雰囲気か、などまるでわからなくても、いつか必ず行かなければならないところになっていたのでした。そしてついにAさんと台湾に行く、となった時に台北の観光を省いてまでも台中市に2泊して毎日この公園に通うことになったのでした。

果たしてたどり着いた本物の台中公園は快晴だったこともあってとにかくまぶしすぎました。周りにいる台湾の皆さんが優しくて、台中市がとにかく平和で便利で進んでいて、口に入れる全ての食べ物と飲み物が美味しくて、たくさんの若い人が簡単なものとはいえ、流暢な日本語で話しかけてくれて、感動の連続でした。祖父は教師だったので台中の師範学校で教鞭を執っていたのですが、祖父がいた頃の建物がそのまま残っていて台中教育大学の本校舎となっていました。祖父と祖母が私の父の出生届を出したであろう台中市役所の建物も当時のまま。中庭をぐるりと回る廊下も当時のままらしく、古い壁や重厚な柱は、ここに祖父が来てここを歩いて、ここで届出をしたのであろう、とすぐにでも想像ができる状態でした。台中市には日治時代にこういうものが作られました、こんな出来事がありましたというようなわりと前向きな歴史パネルがいろんなところにあって、大げさですが胸を打たれました。

快晴で風が吹いていて素敵な台中公園でした。少しチクっと切ない気持ちになったのは、祖父が生きている間に、あるいは祖母が元気なうち(健在ですが高齢のため飛行機に乗れる状態ではありません)に何故一緒に行く事を考えなかったのか、という後悔がこみ上げるからでしょう。また絶対に今度は連れて行きたい人とちゃんと一緒にこの台中公園を訪れたいと思います。

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